ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

Toyo's Camera

 恵比寿に東京都の施設としては驚くほど洗練された建物の「東京都写真美術館」があって、これまでに何回か行ったことがある。豪州の若手写真家の展示会、その前に2000年に江成常夫写真展を見に行った。これはカリフォルニアに嫁いだ日本人花嫁を写真にしたものだった。
 今日は1Fのホールで上映されている「東洋宮武が覗いた時代 TOYO'S CAMERA Japanese American History During WW-II」を見に行った。どこの映画館にも負けないくらいの上々のシートで、190席のど真ん中に座った。私より年上と覚しき方々ばかりだけれど、多分20名ほどの観客しかいない。ポマードが匂う。毎日4回上映しているんだから、これが平均観客数だとしたら一日に80名の観客ということか。こうした映画を日本人の人たちがそんなにどんどん見に来るとはとても思えないからこんなものだろうか。
 映画の入場料は巷の映画館と全く同じで、「50割」も「高校生割り」もある。普通都立の施設はシニアは65歳からだけれど、映画に限っては民間と同じシステムだということになっている。なんだか奇妙じゃないか。私はむしろ普通の民間映画よりは安いのかと思ったらそうじゃないらしい。
 当時の米国政府は「relocation camp(転住キャンプ)」と呼んでいたけれど、日系人はこれを「internment camp(拘留キャンプ)」と呼ぶ。東洋宮武はLos AngelesのLittle Tokyoで写真館を営んでいたのだそうで、彼はマンザナー(Manzanar, California)に収容された。彼はレンズとフィルムケースを持っていき、カメラ・ボックスを作ってもらって写真を撮った。そのうち、当時のManzanarの所長の理解よろしきを得て、ちゃんとしたカメラでキャンプを撮りまくった。
 彼は戦前バレリーナや役者等の写真を撮ったりしていたそうで、とても美しく素晴らしい構図の写真を撮る。
 そうしたManzanarを起点に東洋の写真だけではなくて、日本人、日系米国人がどれほどの理不尽さに遭遇してきたかという戦中の歴史をつまびらかにする。私にとってはどれひとつとして目新しいものがでてくるわけではないけれど、復習とでもいうような機会を与えてもらったようなものだ。
 昨年の6月に395号線を北からLone Pineに向かって降りてきたときに右手にManzanar National Historic Siteの門を見ていたからあの周辺のおおよその様子が実感できる。私たちはLone Pineでランチにしたが、その店の駐車場からMount Whitneyが見えていた。東洋の写真には建ち並ぶバラックの遙か彼方の上にそれが浮かんでいるように稜線が映っている。

 キャンプから出征していった二世たちが年老いて「Go For Broke」のユニフォームを着てインタビューに答える。リトル・トウキョウのあのモニュメントにいたおじさんが着ていたユニフォームと同じ。私には区別がつかないのだけれど、ひょっとしたらあの時におられた方が出ていたのかも知れない。
 映画上映前にチラシを見ていると出演者の中に渡部昇一の名前が見える。なんでこんなところに彼が出てくるのかと不思議。彼は77-8歳になるから丁度キャンプに入れられた二世の人たちと同年齢になるのだろうけれど、それにしても私にとっては違和感を感じる。彼はフィルムが始まって早いうちに出てきて「米国人はアジア人に対して偏見を持ってこうしたことをしたんだ」というのだけれど、その彼が「日本人や、支那人や・・」という無神経な言葉遣いを平気でする。君がその「偏見」を持っているじゃないか。なにしろこの映画の後援は産経新聞なのだから「仕方がない」*1のだろう。
 私は外務省がしきりに毎年呼んでくる日系人社会のリーダー達、といわれる人たちの中にどうも今の日本社会の勢力図に敏感に立ち回っている姿が垣間見えるような気がしていた。JACL(=Japanese American Citizens League)が常に時の勢力に敏感だったのではないかという仮定の仕方もできるのかも知れないけれど、それはあまりにも僭越な決めつけかも知れない。
 この映画にはラルフ・ローレンス・カー*2も取り上げられる。
 もちろん二世の中でも日本で教育を受けて帰ってきた「帰米二世」についても説明がある。
 すべからくこの映画は東洋宮武の大変に興味深い数々の写真を使いながら大戦中の米国西海岸地区における日本人、日系人はどのような扱いを受け、苦労してここまで来たかというレクチャーの集大成だといっても良いだろう。兵役忌避者についてまでも触れられている。
 最近アイリーン・ヒラノと結婚して話題になったダニエル・イノウエの欧州戦線での逸話なぞはとてもインパクトがある。初めてドイツ兵を撃ち殺したときには周りのみんなから「やったじゃないか」といった声を掛けられてその気だった。しかし、後日、戦闘で倒した相手のポケットからひと束の写真が出てきた。それが全部家族、妻や子どもの写真だったのを見つけて、彼はそのドイツ兵にも自分と同じように家族がいて、家庭生活を送るひとりの人間だったとわかったときに恐ろしい状況にいることに気がついたと切々と語る。
 本当のことをいうとこれはもっともっと日本の青年達に見てもらいたい映画だ。偏見がどのような事を生み出してしまうのか、そしてそれはどこまで歴史上で後を引くものなのか。
 場面の切れ目に喜多郎の音楽がうまくシミュレートしていないところがとても気になるのだけれど、この映画は総じて当時の日本人・日系人の問題を語る上で、語らなくてはならないことの全てが盛り込まれている。生まれて初めてそんな状況をこの映画で見た人にとっては盛りだくさんすぎるかも知れないが、こぼれた話は多分ないだろう。
 戦争が終わって新たに日本からやって来た米国の日系人社会の新参入者である「戦争花嫁」の方達について伝えるものが微々たる状況であることが気になって仕方がない。
 この映画の中に出てくる作品:

Unfinished Business [DVD] [Import]

Unfinished Business [DVD] [Import]

  • The Rabbit in the Moon (1999)

他にもこんな作品が検索で引っかかる。

  • Farewell to Manzanar (1976)
  • Come See the Paradise (1990)

追記:090428:こちらのブログで知ったのだけれど、エンディング・ロールのバックに流れていたラップは「ジャパニーズアメリカンのマイク・シノダが作ったフォートマイナー/Fort Minorというグループの曲、「Kenji」だそうだ。この歌詞面白そう。

*1:映画の中で一世世代がよくこの「仕方がない」を使ったと指摘されている

*2:コロラド州知事(1939年-1943年)WW-II中に日系アメリカ人を擁護