ほぼ足りてまだ欲 その先

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通訳

 昔仕えていた役員の元に英国のジャーナリストからの取材依頼が業界団体を通してきた。それを伝えたらもちろん受けるといってくれるのだけれど、事前に通訳はどうしますかとお伺いしたら要らないという。そういえば英国駐在していた方だから大丈夫なんだな、と思った。ところが、いざその日に英国人のインタビュアーが来たら、「さ、君、通訳して」と私にいうのだ。おいおい、そりゃないよ。
 あの役員が何を考えたのか知らないけれど、それは大変にまずいアレンジである。折角インタビュアーが通訳を準備するけれど必要かと聞いたのであればそれを受けるべきだ。というのはひと言ひと言のニュアンスが通訳を介した時に100%すべてが正確に相手に伝わるかといったら大変に難しい。それはどんなに優秀な通訳であっても短時間にその場の雰囲気を壊さずに伝える上では困難だ。しかし、それでも責任が明確になっている通訳を起用するのが最も正しい姿だろう。
 この役員は私を鍛えようと思ったのかも知れない。しかし、この場合のその場での役の振り方はまずい。自分のことばを大事にする立場のある人間がとるべき姿ではない。これが業務の現場で急に振られるのであれば様々な訂正のチャンスがあるのだから、まだフォローのしようもある。私は新入社員で配置されるやいなや、スコットランド人を連れて現場に乗り込まなくてはならない場面に遭遇した。行った先ではそのスコットランド人が来ることはわかっているといっていたので通訳する人がいるのかと思ったのに、行ってみたら誰もそんな人はいなくて、ただの道案内人だと思っていた私がその立場に立っていたという驚くべき状況だった。しかも私はスコットランド人に出逢ったのが初めてで、スコッティッシュの英語もはじめてだった。冷や汗びっしょりだった。
 もし私が業界の一員として今後をどう考えているのかという話をするのであれば、通訳を準備するし、それが準備できなかったのであれば、彼等が連れてくる通訳を起用する。その場にいた人間に突然振って済ますようなことはしないな。だって、打ち合わせもひとつもしていないんだから。