ほぼ足りてまだ欲 その先

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NHKスペシャル「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」

 今晩は第三回「熱狂”はこうして作られた」である。現在のマスコミの姿勢を非常に大きく批判する番組になってしまったといって構わないのではないだろうか。かつて朝日新聞が自らの戦前の姿勢を大きく自己批判したことは記憶に鮮明に残っている。かつての陸軍作戦課長、今井均は当時の朝日新聞主筆たる緒方竹虎に呼ばれ、4時間語ったことを証言している。当時朝日は軍に同調しないが故に不買運動に晒されていた。そこで緒方から陸軍の考えを本気になって語れといわれて語り、緒方は最後に「良くわかった」と反応し、それ以降朝日は大いに変わったのだという。新聞にとっては販売促進と、「国益」という考えが一致した時点だった。
 「満鉄線への攻撃は軍の謀略だった」ことは明確でありながら新聞は終戦までこれを全く報道していない。
 国際連盟に飽くまでも留まることを前提にジュネーブに乗り込んだにもかかわらず、結局連盟を脱退して帰国した松岡洋右を、新聞が煽った「国連脱退論」に沸き返る民衆はやんやの喝采で迎える。「皆の頭がどうかしていやしないか」と松岡は思ったという。一つのメディア姿勢に他のメディアが追従し、大衆がそれに迎合する。
 1933年9月、信濃毎日新聞主筆桐生悠々は「紙と木でできた日本の住宅への空襲が本当にあったら、こんな演習したって全く意味がない」という至極まっとうな記事を「空襲演習を笑う」という記事を書いた。すると信州郷軍同志会なるものが社に押し入って桐生の辞職と謝罪を要求し、不買運動をほのめかす。発行部数2万部の信濃毎日新聞は謝罪の謹告を掲載して桐生は退職する。しかるに同社社内には同様も反響もなく、この動きには醒めていた、という。
 こうした動きに新興メディアのラジオは一役も二役も買い、演説会の生中継で人心を煽る。
 現在の靖国神社。「(当時は)ラジオは神様のように思っていました。」「信用しきっていました。」と人びとの声を取る。
 司会者、松平定知はいう。「メディアがおかしくなれば国家はおかしくなる。メディアはそうした力を持っている。」このことばを今のNHKは本当に理解しているか。「政治と金」ということばだけでもって小沢一郎を粉砕し、政権交代を果たした民主党政権を分断して、自公に偏る論調を創り出しているのは今のメディアではないのか。官房機密費のその後の行方に触れもせず、なぁなぁにしてすませようとしているのはメディアではないのか。原発の反対運動、沖縄高江のヘリパッド新設に反対する現地の人びとの闘争を全く報道していないのが今のメディアではないのか。すべての現在のマスコミが国民を真実から隔離した状態に放置しているのではないのか。
 NHKだけでない、すべてのマスメディアに現在の姿勢を問いかける番組だという意識を持ってこのシリーズを捉えるべきだろう。
 最後に元毎日新聞記者で、敗戦とともに退社して故郷の秋田・横手に戻り、一人で週刊「たいまつ」という新聞を出していた武野武治(96歳)が語る。「戦争は始めさせては駄目なんだ。始まってしまってからではもう遅い。現実に何が起きているのか、誰が何を思っているのかを知らせなくてはならないんだ。」
 今のマスコミがこのことばをどう受け止めるのか。現役のマスコミ記者、カメラマン、経営者すべてがこのことばを真剣に今受け止めてみろ。