ほぼ足りてまだ欲 その先

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恩師

 旅から帰ってくるとつい先日の消印の葉書が食堂のテーブルの上にあった。なにやらんとひっくり返してみると北海道の余市からの葉書だった。
 時候の挨拶葉書にしては随分時季外れじゃないのかと思って読むと、息子の恩人である先生の奥さんからの葉書だった。夕張で子どもたちを育てたおばあちゃんが亡くなったという事が冒頭に書いてあって、そうか、おばあちゃんも長生きだったんだなぁ、20年前にもう既におばあちゃんだったのだよなぁと思って先を読むと、当の先生が肝臓ガンの発覚から始まって転移が進んでいて、今のうちであれば意識がまだあるから逢えるけれど、医者からはこの先は長くないといわれたという悲痛なお知らせだった。
 そこへ息子から電話があって、行ってきたという。そうか、逢えたのか。
 伊藤英博先生は東京オリンピックの柔道選手として強化メンバーに入っていたほどの実力の持ち主だったのだそうだけれど、足に怪我をして競技生活を諦め、大学を卒業後警視庁に奉職し、機動隊に配備されていたのだそうだ。それが北星学園余市高校に教師として赴任したのだそうだ。
 あの頃の柔道選手にありがちな一気に押し込む人生ではなくて、意外なほどの繊細さを持ち合わせた人で、見た目とは随分違う人である。
 この人のおかげでうちの息子は生き返ったといっても良いだろう。そこから先もうちの息子は山あり谷ありだけれど、9月に節目を迎えた写真を先生に見て戴くことができたと聞いて、本当に良かったと思った。先生はまだ74歳だということだけれど、今の時代、この年齢はまだまだ若い方だろう。
 先生に頭が下がるのが、うまくいかなくなってしまって、壁にぶつかった子どもたちに、先生は懇切丁寧、粘り強く、ひとつひとつを取り返すことに手を貸してくれていた。感謝に堪えない。