私にとって1960年代というのは中学から大学まで、つまりずっと生徒・学生だった10年だった。今から考えると、交通機関はそんなに便利じゃなかったし、オリンピックの関係なのか、あっちもこっちも工事の騒音がしていて、ホコリっぽくて、暑くてぎらぎらしていたような、そんなイメージばっかりだ。
都電がガタガタと振動を送り続け、地下鉄は暑くて窓を開けて騒音がし、国電の扇風機がぶぅ〜んとまわっていたって、窓から入ってくる風の方がなんぼか役に立った。
冬はいつでも学生服の下にセーターを着込んでいた。その上に着るハーフコートは親父の古い背広をひっくり返して作ってもらったもので、そんなんでも誇らしげに着るものだった。
それがひっくり返ったのはVANジャケットができたからだったといってかまわないだろう。あれで、学生服はダサイんだなと気がついた。気がつかなきゃ良かった。多分にビートルズとヴェンチャーズとVANが私の生活にとんでもない影響を及ぼしてしまった。彼らがこの世に出現しなかったら、私はそのままいつまでも小説を読んで下を向いて黙々と歩くという人生を送っていたのではないかとすら思う。
いや、多分それに代わる何かがあって、やっぱりこっち方向に曲がってきていたのかも知れないけれど、情けないことに私の人生はこの三つが作り出してきたといっても差し支えない。