あぁ、あの人かと思い浮かべることのできる人ももう大分少なくなったことだろう。私は中学校に入学して初めてこの人の名前をフルネームで知ることになった。というのは私が最初の一年間だけ在籍したのが東海大学第一中学校（現：東海大学付属翔洋高等学校・中等部）だったので、随分古ぼけた木造の校舎での入学式に松前重義が出席していたことを覚えている。
戦中、逓信省工務局長兼防衛通信施設局長だった松前は日本の生産力を厳密に分析してどう考えても米国に立ち向かえるわけがないとして海軍統帥部、高松宮、近衛文麿、宇垣一成、鳩山一郎、中野正剛に説明を繰り返したことに対して東條英機の怒りを買い、懲罰召集された。東條は徹底して松前の行く先に手を回し、最後は1000トンたらずの爆薬船に搭乗させて南方へ送り込むことまで仕向けたのだけれど、生き残った。
例の「証言・あたしの昭和史」の第4巻に三國一朗による松前重義のインタビューが載っている。
終戦後、渡辺岩伊という青年がやってきて松前重義と石原完爾の暗殺実行を命令されていたのだけれどできなかったといったと証言している。
