ほぼ足りてまだ欲 その先

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万年筆屋

 昔はちょっとした街だったら日本全国どこにでも必ず万年筆屋さんがあった。中学校に上がると、概ね進学祝いといって万年筆が贈られたものだ。もうお兄さんなんだからなとでもいうような意味があったのかもしれないけれど、なぜだかよくわからない。私が中学に進学した時は、エボナイトの軸に名前を彫ってある万年筆を誰かからもらった記憶がある。それを学生服の胸のポケットに指していくものだった。中学入学の時に、保護者の一人が手を上げて、中学に入学したからといって万年筆が必需品でございましょうか、というようなことを質問した。当然学校の答えはそんなことはありませんだったと思う。
 その地方都市では二つある大きな商店街(今はもう見る影もないが)にやっぱりそれらしい名前の万年筆屋さんがあった。人からもらってしまったので、自分から買いに行ったことはない。
 高校に入った頃、父親の書斎で古い万年筆を見つけた。父親に聞くと古い万年筆だからおまえにやると言った。古いもので、インクを入れるのには胴についているレバーを立て、インク壺に突っ込んでそれを静かに戻すとインクが入る。その万年筆で大学ノートに書いてみて驚いた。とてもスムースな書き心地で、ペンが走るという表現はこのためにあるのかと思うようなスルスル感とインクの出なのだ。父親によれば学生の時から大事に使ってきたのだという。当時私が15歳で父親が51歳だから彼がそれを使い出してから30年は経っていただろう。さすがにインクを一杯入れるとインクが漏る。しょっちゅう指を真っ青にすることになるのだけれど、その書き心地の良さについつい毎晩大学ノートに4-5頁の日記を書いていた。
 先日神保町の金ペン堂で入手したペリカンのm-400はあれに勝るとも劣らない書き心地だ。さすがなんである。