ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

通し狂言

 国立劇場こけら落としから満五十年だそうで、10月から仮名手本忠臣蔵の通しを12月までかけて上演しています。毎日一回興業で、朝11時から午後4時15分まで、途中二回合計55分間の休憩を挟んでおります。
 じゃ、三越で辨松の並六の弁当を買っていこう!お〜ッ!ってわけで勇躍三越の地下の入り口に到達すると、なんと大きな文字で、午前10時30分開店、とあります。えっ!?古来デパートッてぇものは午前10時開店と相場は決まったものでございます。それをなんと30分サボっているというわけで、そんなのを待っていた日には滅多に行かれない歌舞伎の開幕に後れをとろうというものでございます。そんな三越は知らねぇや!ってわけでそのまま半蔵門に、半蔵門線でやってきますと、あの長ったらしいプラットホームに、爺さん婆さんがぞろぞろと歩いております。というか、デレデレ、ダラダラと動いているといった方が良いかもしれません。勿論私たちもそのうちのふたりですが、なにしろ、この駅の一番国立劇場に近い出口なるものは延々と階段を上がるのでございます。皆さん、私も含めて、どこかにあるんだろうエレベーターを探す気もございませんな。
 地上に出たところの信号の四つの角のうちの一つは「オリジン弁当」で、もうひとつの角がコンビニです。もう、次から次にお婆さんが買い物をしています。私たちも仲間に入って、太巻きの寿司とサンドイッチを購入。こんな時はちょっと高い昔ながらの弁当を誂えたいものでございます。それがそうはいかないときは居直ります。なにも分不相応なことをしなくても良いじゃないかと。
 実はこの三階の切符は新聞やさんの抽選会で当てました。4.8倍の競争率をくぐって当てました。実際に買ったら1,800円です。だからそれ位の値段の弁当を誂えたってバチは当たらないのです。
 幕開きは、お軽勘平道行きでございますよ。勘平さんは萬屋中村錦之助、お軽は尾上菊之助でございます。これが六段目の勘平腹切りになっちまうと、勘平さんが菊五郎さんになりますね。若干歳がいき過ぎちゃったんじゃないかと、イヤそうじゃない顔が大きいんだと、自分の顔かたちの悪いことを棚に上げ、菊五郎さんのことを陰口をたたきながら、若干眠くなります。
 順序が逆になりますが、五段目、山崎街道でございますが、何しろ先日、金原亭馬生さんの「中村仲蔵」を堪能したばかりでございますよ。斧定九郎がどんなに目を見張る格好で出てきてくれるのかと、ドキドキしながらその出を期待しておりましたが、やれた傘で半分身を隠して、ばたばたっと出てくるわけじゃなく、とっつぁんがやれやれと休んだ稲干し場の陰からとっつぁんを刀で刺して登場する、ま、これはそんな型があるんだからかまやしないけれど、朱鞘の刀でもないし、足がこれで本当に白塗りってぇのかい!?というようなものだし、なんだか期待していた定九郎と、ちょっと違うんだなぁ。中村仲蔵ってのは実在する人物だそうで、イヤフォンガイドの中でも、彼がこの役を確立したといっています。もうちょっと粋にならねぇかなぁ。
 で、話はついでに道行きに戻ります。上手に清元の太夫が四人、三味線方が三人並んでおられます。その一番上手におられる三味線にどうやらカポタストのようなものがついているんです。それでその方はハイ・ポジションばかりお弾きになります。どうやら三味線枷(かせ)というものがあるんだそうです。こういうものだそうだと連れ合いに話すと、かつて三味線も小唄もやっていたというつれあいが、ぽつりと、そういえばそんなものを使ったことがあったわねぇ、という。四人の太夫が揃って高い音をお出しになるのを見ていると、よくぞまぁ、こんな高い音が出るものだと、プロとはいえ、その声にビックリするだけじゃなくて、義太夫に負けないくらいの迫力を込めて唄っているんだなぁとそっちばかりを双眼鏡で見続けるってぇわけです。六段目では義太夫太夫と太棹の方は御簾の中で見えませんが、七段目の一力茶屋になりますと、グルッと回って出ておいでになります。こうなると役者を見たり、太夫の力の入り方に感動したり、太棹の方が入れる合いの手の勢いに人生を見ちゃったりするんですが、とても忙しくなります。
 足軽の平右衛門が妹のお軽と遭遇して身請けの話から気がつく名台詞。「残らず読んだそのあとで互いに見交わす顔と顔。じゃら、じゃら、じゃらと、じゃらつきだいて身請けの相談、おお!読めた!」これが大好きで、ここに来たら、もう何度でもやって貰いたくなっちまう。帰りの三宅坂の堀端をトロトロと下りながら、大きな声で「じゃら、じゃら・・・」ッてんです、もはやまともじゃないね。
 五十年記念というわけで12月は小劇場の浄瑠璃も昼夜で忠臣蔵の通し公演だってんですから、今年は爺さん婆さんはみんなして「じゃらじゃらじゃらと」遊びましょう!
 風呂を立てる一つでも、見得を切りながら「しからば、ワッチが、風呂立てましょ〜ぞっ!」とやっております。

追記

 大星由良之助は中村吉右衛門でございましたが、さすがの貫禄ながら、どうも台詞がよく聞こえませぬ。「そりゃお前が三階席の後ろから二列目なんかに座ってンからだよ」と云われりゃそれまででございますが、耳に手をあてがって歌舞伎を見るってのも、些か年寄りっぽくてよろしいんじゃないですかねぇ、なんていわれそうだ。あの人、あんまり口開かねぇもんね。