ほぼ足りてまだ欲 その先

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季刊清水

 静岡の戸田書店が出している”季刊なのに、年末に一冊出るだけ”な「季刊清水」の第50号が出た。特集が「由比」なのはこの雑誌に関わっている清水出身の装丁家、石原雅彦氏のブログで読んで知っていた。由比は非常に急峻な薩田峠の麓にあって、年に二回の桜エビの漁港として、そしてまた台風時期に必ず東名高速と国道が高波で通行禁止となるところとして知られている。
 清水在住のころは良く車でこの沿線を走った記憶がある。三保に暮らしていた子どもの頃は「桜エビ」といったら干したもので、角や足がつんつんして口の中で刺さり、あんまり好きなものではなかった。大ぶりの車エビの海老フライこそが海老だと思っていたから、数段劣る食い物だと思っていた。それが二度目の清水暮らしをした20代後半には新清水の駅の向かいの飲み屋街にあった寿司屋で生しらすやら生桜エビを食べるにいたって、やっぱり地元でないと食べられないものには旨いものがあるんだとわかった。
 ところが興津にしたって、由比にしたって、全く街を歩いたことがない。興津に昔あった水口屋という料理屋にスポットで何回か、仕事の関係で行ったことはあっても、それはただの定点訪問でしかなかった。行こう行こうと思いながら、とうとうこの歳になった。
 この特集で想い出したのは学生時代のサークルにいた由比出身の先輩のことだ。二年上の先輩だが、私は在学中に彼女が由比の出身で中高がうちの姉たちと同じ学校だったことも聴いていたから、お薦めしようと思って電話をした。彼女は、先月も顔を合わしていたけれど、ほとんど私に関心がないからかつて私がそういう話をしたことも覚えていないし、one of 後輩sとしてしか見ていないから、かなり警戒心を持っていたようだ。この歳になってそんな「騙り詐欺」でも近寄ってくるのかも知れないなぁとは思うが、なんだか剣突を食らったようで甚だ面白くない。余計なことを思いたった自分が悪い。
 ところで、この第50号には他にも特集があって、日系米国人のひとりを取り上げた人がいる。もともと三保半島にはアメリカから帰ってきた人たちが住んでいたことがあったらしくて、掘ってみると面白いことがある。ここで取り上げられている藤田晃という人は、かつてジュビロ磐田でプレイをしていた藤田俊哉の大叔父さん、つまり父親のおじさん、に当たる人のようだ。藤田晃はカリフォルニアの生まれだけれど、2歳で日本の祖父母のところで育ち、戦争前に米国へ帰った、ある意味「帰米二世」。戦争中にツールレークの収容所にいたということは「ノーノーボーイ」だった。彼は1980年代に二冊の小説を著しているのだそうだ。
 この特集はいわゆる日系米国人二世・三世の戦争中の状況の一般的な解説に終始してしまっているきらいがあって、藤田晃自身についてもう少し詳説されていると良かったのだけれど、その辺についてはあまりつまびらかにされていないのだろうか。写真がとても見づらいのが残念だ。