ほぼ足りてまだ欲 その先

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現実

  • 元農水事務次官(76)が家庭内暴力を続けていた息子(44)を刺し殺し、一審では懲役6年の実刑となった。
  • 88歳の母親が70歳の寝たきりの娘を刺し殺し、自分も自殺した。

 日本の公的機関が現実から目をそらしてやり過ごしている事態がここに凝縮されている。もう子どもの閉じこもりという事態が語られてから何十年も事態は変わっていない。あの戸塚ヨットスクールが開かれたのは1970年代のことだというから、当時から既に閉じこもってしまう子どもの存在は知られていた。この事件後も、無理矢理引きこもっている子どもを施設に収容してしまうやり方が、報じられるようになったり、事態はより深刻になっていく。1980年代後半に入ると、そうした子どもを抱えて、どうして良いのかわからなくなった親たちは、地方自治体が持っている教育研究所等がほぼ片手間に携わっている対策講座にその活路を見いだしていた。

 当事者が集まって気兼ねなく、時間を過ごすためのスペースを提供する人たちが目に見えるようになるのには、マスコミの力がとても重要だったのだけれど、面白半分に取り上げるワイドショー的な番組の弊害も同時に存在した。あの石原慎太郎戸塚宏に賛同して、旧態依然たる価値観を振り回した点で、罪は深い。
 一方奥地圭子が「東京シューレ」を始めたのは1985年だそうだ。そうした子どもたちを抱える親の会を奥山雅久が代表となってNPO「KHJ全国ひきこもり家族会」となったのは1999年のことだというけれど、千代田公会堂で立錐の余地のないほどの人が集まったのは、多分、1980年くらいではなかったか。

 内閣府の調査によると、引きこもり状態にある人は40~64歳だけで全国に推計61万3千人もいるといわれている。当然彼らの親はそれ相応の年齢になっているわけで、親の心配は、自分たちが他界した後、彼らの子どもたちはどう暮らしていくことになるだろうかという不安である。それは身体的、あるいは精神的な障害を持って暮らしている子どもを持っている場合も全く同じ状態にある。

 なんの憂いもなく、なんの悩みもなく、親も子どももまったく元気に暮らしているほとんどの家庭に暮らす人たちには全く想像する必要もない事態なんだけれど、直面している家庭では事態は非常に深刻である。
 そういう観点に立って今の政権の対策、根底にある思想を考えると、全くなにもない。各自治体の、それも現場に直面する窓口だけが気にしているか、いないか程度の話である。事件となって露呈した時に、初めてマスコミは気がついたかの如き報道をするが、当然彼らが現場で直面する事態は日頃報じても、三行ネタにしかならない。

 しかし、もう逃げられない局面に、私たちは立っている。それを認識するだけでも今直ちに必要で、事態を無視するわけにはもう行かない。