
もうあれから10年以上経っていると思う。川崎の帽子屋を覗きに行った。頭に残っていた場所と、位置が違っていた。なんで違う場所をそうだと思いこんでいたのか、ちょっとわからない。私は意外とこの辺の記憶はある方で、だいたい思い出すことができる。何年も前に旅行で出かけた町でも、ずいぶん経っていった時に、おおよそこの辺にあったはずだけれどなぁと行ってみると、大体あっているということが結構ある。しかし、この帽子屋はそもそも向いている方角が違っていた。
当時と同じように圧倒的な物量だったけれど、私が求めているようなものはなかった。私がキャスケットというと、その店の若いご主人は「それは婦人用の帽子のことを指す」というようなことをいった。彼によると銀座と浅草にあった「トラヤ」はオウナーが売り飛ばしてしまったんだという。つまり両方の店にいた、あの人もこの人もお店の主人ではなかったということか。そういえば閉店するという直前に行った時に、「オウナーがやめるというんで、どうしようもない」とおっしゃっていた。考えてみると、結構傲慢な商売をやっていた人なわけで、やめ方も傲慢でもおかしくはなかったということかも知れない。せっかく帽子を被る人達が多少なりとも増えつつあった頃だったので、とても残念だった。
もはやこれまであったような帽子屋は店舗を持って運営するようなことは無理なのかも知れない。残っているのは安っぽい帽子を並べた安易な店ばっかりになってしまっている。あとは通販に頼るしかなさそうだ。サイズを試すことができないという不便さが伴うのだけれど。
本屋の雑誌の平置き台で「地平」を探すが見当たらない。カウンターのお姉さんに「入っていないんですか?」と聞くと、端末をいじってから「あるはずなんですが・・」といってすっ飛んでいく。後を追っていくと、私が見たのと同じ平置き台をためつすがめつする。やっぱり見当たらない。すると、彼女は文藝春秋が二冊並べてあるところをもちあげると、片方は「地平」を隠すように文春が重ねてあったのである。まるで誰かお客が意図的に「地平」が気にくわないから文春を乗せたかのようだ。そういえば「月刊Hanada」は二冊並べてあった。あの下にもなにか隠されていたのかも知れない。そんなことが今や平気で行われるような世の中になってきているから、疑心暗鬼になっても無理はない。