ほぼ足りてまだ欲 その先

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「コロンブス・アカデミー殺人事件」

 ニュー・ジーランドのオークランド近郊での「コロンブス・アカデミー殺人事件」は、その後の情報が日本ではほとんど伝えられていないが、地元新聞(The New Zealand Herald)のwebサイトでは毎日記事が掲載されている。

 地元の警察に逮捕されたのは金森克雄(Soon Keuk Kim)理事長をはじめ10名のようだが、逃亡の恐れがないとして全員保釈されているらしい。しかし、ニュー・ジーランド・ヘラルド紙上、またThe Japan Times紙上ではすでにこのメンバー全員の本名と年齢も公表されていて、17歳から26歳の9名である。

 被害者の篠崎望さん(22歳)の両親は27日にはすでにオークランドに入っているが、不可思議なことに同紙の報道によると両親は篠崎さんが現地の高校に通いながら日本食レストランで働いているのだと理解していたとされているようだ。この日本食レストランというのは市内にこの組織が持っていると報じられている二軒のお好み焼きやさんを意味しているのかも知れない。この施設には30名の日本人が滞在しているが、この他にオークランド市周辺に約20名がホームステイして滞在しているらしい。

この施設の母体であるNPO法人のwebサイトには下記の如く記されている。

 特定非営利活動法人コロンブスアカデミーは、神奈川県横浜市所在の任意団体インターナショナルコロンブスアカデミー(以下、I.C.Aと略す)を中心母体として、I.C.A代表者、スタッフ、民間のボランティア、医療、教育関係者、I.C.A生徒の保護者及びI.C.Aの活動に賛同する一般関係者らの有志が設立人となって、その総意に基づき独立した法人として設立されました。
(中略)
 ヨットでの長期外洋航海が、他に例を見ず今年で20回目を迎え、カナダ、オーストラリア、南太平洋、ニュージーランドへと活動を継続、発展

私が最初にこの事件の報道に接したときに持った疑問は、

  1. この団体がこの事件をきっかけにかなり叩かれることになるのではないか
  2. 日本ではまだしも、外国でアカデミーという名前を使っていたことは問題ではないか
  3. 被害者である22歳の青年がすでに5年間滞在しているというが、ビザは一体どうなっていたのか

というようなことだった。

 ニュー・ジーランド・ヘラルド紙は2月28日の紙面でこのコロンブス・アカデミーを「rogue institute」という表現をしている。これは良くない意味、「はぐれもの」というニュアンスが強い。しかも教育担当相のマラッド氏はこの組織の存在については政府は全く知らなかったとしながらそのコメントの中で、青年たちがこのアカデミーに所属することでビザが発給されているわけではないことを強調している。現地の学校に所属することを基本にして、青年たちに対してスチューデント・ビザが発給されているわけである。
 となると、ここに滞在している日本人たちの中で、地元の学校に通っている人たちはまだしも、すでにそこをやめている人たちがいるとすると彼ら自身の滞在許可条件に違反することになり、同時に彼らがスチューデント・ビザを得るためのguaranteeをした現地の学校法人にも問題がおよぶ可能性があるということにもなる。

 教育担当相はこの事件がニュー・ジーランドの留学教育に影響とならないことにかなり気を遣っている様子がうかがえる。豪州にしてもニュー・ジーランドにしても外国、特にアジアからの留学は、学費が国内学生の学費を遙かに超える金額となっているのが通常で、普通に輸出産業として認識しているからである。多分、コロンブス・アカデミー側はこの施設を教育施設として存在している認識は持っておらず、日本のフリー・スクールが通常日本に抱えているみんなの居場所的な感覚での認識しかもっていないだろう。にもかかわらず、現地報道機関も政府もあたかも「もぐりの教育スペース」的な認識をこの時点では持っていることが分かる。これはひとえに「アカデミー」という名称のゆえと私は思う。これが、ただ単に「コロンブス」という名前だけだったらどうだっただろう。

 同紙の記事(2003.03.01)の中では被害者の篠崎さんは「a keen amateur sumo wrestler」と表現されていてびっくりした。なんと彼はニュージーランド人に指導を得ながら相撲の練習をしていたとして、その指導者と共にまわしを締めてオークランドのあるビルの屋上で四股を踏んでいる写真が掲載されている。日本人の奥さんを持つこの相撲指導者は同紙に語っている。この多少知的障害があるらしい青年をニュー・ジーランドに送り込んでから少なくとも過去2年の間、この青年に何ら関心をはらわなかった両親を非難している。この相撲指導者はコロンブス・アカデミーと、この国に来ていながらこの施設に閉じこもっている青少年たちを異常な状況としてみていることがわかる。

 わが国の不登校、ひきこもりの状況が如何に他国の状況の中では理解されにくいものがあり、だからこそ海外にやってくる青少年が親に捨てられた状況にいるんだろうと見られてしまう。日本固有の社会的問題を他国(この場合ニュー・ジーランド)に持ち込むのはやめて欲しい、というコメントをすでに同紙に寄せている政治家もいる。この他国では理解できない社会的問題は実は現地ではかなり以前から問題視されている。
 これはニュー・ジーランドだけの問題ではなく、私の知る限りでは米国でもカナダでも豪州でもやはり生じている。日本で学校を中退してしまったり、不登校、ひきこもり経験を持つ青少年を外国に「留学」させることによってどうにかなってくれるのではないかという親のかすかな希望、期待に応える産業が確かに存在している。彼らは現地のそうした機関とタイアップして現地の学校への留学とホームステイを設定して対価を得ている。確かにニーズが存在し、そのニーズを満たす機関があって成立している一種の産業ということはできる。
 しかし、現実にはそれでなくても対人関係に困難を生じてそうなった青少年に対して、ほぼトラベル・エージェント的な解釈だけでその行き先を斡旋して稼ぐという企業にぽんと任せて解決していこうとする考えに大きな問題がある。
 ホスト・ファミリーの中にはただ単なる収入源として割り切っている家庭もあり得るし、なにしろ言語的にコミュニケートできないという大問題がある。ここでも不登校タイプの人たちはそれほどの問題にならない場合が多いが、いわゆる怠学とでもいわれるような状況で日本の学校からはじき出された挙げ句にこうした環境にいる青少年には問題は大きい。それでなくてもわけの分からない環境に一人で取り残されてしまうのである。私は彼らのことを「教育棄民」といっている。日本の教育制度と他人の目から隠そうとする親の考えの犠牲になった子どものことである。そして彼らは日本社会から忘れられている。

 しかし、このコロンブス・アカデミーに来ている青少年がこうしたいわゆる「教育棄民」状況にいるとは断じることはできない。どうしても日本の社会にフィットできなかった青少年たちであろうとは思うが、彼らをこんな状況に置かなくてはならない私たちの社会構造を考え直して行かなくてはならないことは確かだ。