ほぼ足りてまだ欲 その先

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東京ローズ、Iva Toguri

 正確にいうとIva Toguriは東京ローズではない。東京ローズという名前の女性は存在しないし、そう呼称した人は存在しない。つまり、WW-IIの末期に日本が太平洋に向けて行っていたプロパガンダ放送、Zero Hourを聞いていた米軍将兵が勝手にこの放送を担当した不特定の女性を”Tokio Rose"と呼んでいたに過ぎない。それなのに、なんとIva Toguriは進駐軍にくっついてきた米国の記者たちの東京ローズ探しにさらされ、彼女はようやく母国が収めた勝利に自由を大いに感じてしまって、「あなたが東京ローズなのか?」という質問に対して軽率にも「ええ、そうよ」と答えてしまったところから長い、長い、そしてとんでもない人生を呼び込んでしまったと云える。


 Google USAで気楽に「Tokyo Rose」を検索してしまったら、なんと87万5千件ヒットしてしまった。ちなみにGoogle Japanで「東京ローズ」を検索すると僅かに1800件ヒットするに過ぎない。つまり、それだけ日本では関心を呼んでいないという事ができよう。米国のいろいろな文献といえるような、あるいは云えないようなサイトを見ると、必ず参考文献として上がってくるのは、ドウス昌代の「東京ローズ」である。これは当初1977年に今はなきサイマル出版から刊行され、1982年に文春文庫化されている。しかし、米国でこれだけ参照されている理由は講談社インターナショナルが、ドウス昌代の夫が英訳したものを発刊しているからである。


 今私の手許には、上坂冬子が書いた「特赦ー東京ローズの虚像と実像」文藝春秋社 1978がある。(1995年に中公文庫で文庫化)ここにはドウスの著作も参考文献としてあげられている。

対米謀略放送を初め、戦時宣伝関係の実務一切を手中に収めていた責任者

である参謀本部陸軍中佐恒石重嗣氏による、ドウス昌代の著作についての指摘も記載している。

p.96
 「事実無根という事に関して多少指摘させて頂くなら、たとえばこの本の中にも事実に反する個所がかなり見あたるんですがね。『恒石はNHK局内に一部屋構えると・・・・・各部門に指令を出し始めた』云々とあるのなどはさしずめその筆頭というべきでしょう」と、恒石氏はちょうどその頃発刊されたばかりの『東京ローズ』(ドウス昌代著・サイマル出版会)を遠慮がちに開いた。
 当時NHKの監督機関は内閣情報局であった。従って軍が「ゼロ・アワー」を直轄すれば越権行為になる。つまり軍は常に情報局経由で管理指導に当たっていたわけで、「NHKに一部屋構え」て指令を出す事はあり得ない。当時の情報官で元NHK海外局職員の並河亮氏(元日大教授・文学博士)に確認をとったところ、
 「おっしゃる通りです。軍が放送局を牛耳るような事はまったくありませんでした。また当時のNHK海外局も軍に牛耳られるような陣営ではありません。それぞれの立場でできる限りの良心を貫いており、私なども恒石氏に楯突いた事が何度もあります。恒石氏はもちろん軍の要請を背負った立場におられましたが、自己抑制のきくひとで、軍の要請と放送の自由とのかねあいを少なくとも論理的には理解し得る知性の持ち主でした」

と書いており、並河元教授は戦前左翼文学の翻訳で著名であり、当時も秘かにそうした研究を続けていたひとだと説明している。こうした経歴を持つ人が情報官に就任していて、その人が評価する参謀がいたという事を聞くと

私は戦時体制とは、一元的に糾弾できるものではないということを痛感

するのだそうである。


 上坂の「特赦ー東京ローズの虚像と実像」は東京ローズをそのままアイバ戸栗そのものと断定し、夫であったダキノ氏の口を借りて、彼女は宣伝放送に従事していた時から、積極的に東京ローズを名乗っていたわけだから、こういう運命を背負っても仕方がないだろうというニュアンスで語られている。
 しかも、この著作は後半ではアイバ戸栗ダキノはどこかに行ってしまって、当時閉鎖命令を受けて閉鎖されていたお茶の水文化学院にあった情報宣伝に従事していた捕虜たちの状況を語ることに集中しており、当時の日本軍が云われたよりもいかに良い待遇を与えていたかについてページを割いている。


 アイバ戸栗の話からちょっとずれるが、上坂冬子ならではの切り口になっていることがよくわかる。
上坂冬子の近著:
「日本はそんなに悪い国なのか」(2003.07)
巣鴨プリズン13号鉄扉 裁かれた戦争犯罪 」(2004.07)をそれぞれPHP研究所から刊行。


 佐藤愛子と共にブランド品をこよなく愛するという上坂は戦中戦後の日本のシステムを見直すという作業に尽力していることがわかる。
http://www.uyoku.com/uyoku4.htm
こういう賛辞もある。


 あの戦争を起こし、あぁした行為を行った(それだってもう証人がいないんだからどこまでが本当かわからないという論調が主流になりつつある)のは当時の日本軍部であり、それを今の日本の政府にどうしろというのだ、という主張はあまりといえばあまりであろう。その程度の認識でオピニオン・リーダーを気取るのは如何なものでしょうか?先生。そうするとナチスのやってきたことに(あれはドイツ正規軍とはまったく異なる団体だったわけだが)賠償してきたドイツ政府は「大バカ野郎」ということになる。彼女によれば大戦中の日系人に対して当時の米国政府がやってきたことに対して賠償をした数十年後の米国政府はバカなんだろう。

http://f1.aaacafe.ne.jp/~ijin/
 ここでは先生は「偉人データーベース」に記載されている。「偉人」である。

それでも「おばあちゃんのユタ日報」は力作だった。防衛大学の卒業式でも祝辞を切々と賜る先生でもある。真の平和主義者は片手に議論、そして片手に自らの武力を持たなければ失敗する、というお話であった。「北方領土」上陸記では読売新聞の書評欄で絶賛されている。
 曽根綾子との18歳全員奉仕構想に関する論争もあったらしい。五十歩百歩という表現はこのためにあるのかも知れないけれど。
 もう、74歳だから自民党から立候補するわけにも行かないだろうなぁ。本籍を国後に移したんだという噂もある。こうなると後は勲章か?それぐらい、これだけ書いていれば出るだろうにね。
トヨタ自動車社員。聖徳学園出身(?)