ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

方向音痴

 そういう人は本当にいて、典型的な例を私は知っています。その人はもう他界された方ですが、元はといえば帝国大学を出た霞ヶ関のエリート官僚でした。天下って私が働いたことがある会社に来られていたのですが、ある年、アメリカのサン・フランシスコで開かれた日米の経済界交流会議に出席するとあって、私はもうそろそろお役御免になりそうだったので、ご苦労さんの意味もあって、その方のおつきで同行したんです。サン・フランシスコのある大きなホテルで開かれたコンベンションに参加する為に、そのホテルに5泊しました。最後の晩、いくら方向音痴のその人でももう大丈夫だろうと思いました。ご本人も「いや、大丈夫だ」と仰ったので、エレベーターホールで「お休みなさい」と分かれました。私はすぐさま現地在住の友人と呑みに行きました。久しぶりの再会でした。
 翌朝、ダイニングで朝飯の時にその方からいわれました。「やっぱり君は秘書には向いていないね」と。冗談かと思ったら、前の晩、やっぱり自分の部屋がわからなかったそうです。それくらい方向がわからない。
 その時の会議に、日本人だったら知らない人はいないというほどの膨大企業のオーナー夫妻が同席されておりました。このご夫妻についておられる方は、もはや秘書というような役柄とは思えず、明らかにかつて本当に存在した「執事」でした。朝から晩までというか、ひょっとしたら、寝室の前で寝ておられるのではないか、と思われるほどの密着ぶりで、朝ご飯のルームサービスをご夫妻にサーブするのはホテルの人ではなくて、この方です。会議の時も片時も離れず、レセプションの時は、ご夫妻の後ろに陰のように密着をして同時通訳されているのです。この方にも驚いたのですねぇ。世の中には凄い人がいるものです。果たして誰に雇われているんだろうか。給料はどれくらいなんだろうか。そんなことばかり気になって、同行仲間で噂になっておりました。
 この南北融和の時点にあって「にわかには信じられない」といっているうちの親方みたいな人のことも「方向音痴」というのかも知れません。