ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

「それでもボクはやってない」

 そんなわけでがばっと空きができた(いや非常に後ろ向きな状況からできてしまった・・お友達の皆さん、申し訳ない)ので、連れあいと京橋散策、そして日比谷で周防正行作品「それでもボクはやってない」を見にいった。
 マリオンの朝日ホール入り口のあたりに民主党の街宣カーが停まっていて、テレビカメラや写真カメラ、メモを片手の新聞記者とおぼしき人びとがたかっていてなんだか黒い山の様に見えるのであるが、そのバスの上には華やかな色とりどりの国会議員の女性が乗っている。どうやら例の「機械発言」に対する抗議演説。ピンクのスーツは福島瑞穂だ。頑張れ。
 周防作品は「シコふんじゃった」も「シャル・ウィー・ダンス」も見た。だから今回も笑えるんだろうと思っていた。そしてもちろんペーソス、である。しかし、この作品は目を離す暇がない。いや、これまでの作品は目を離していたというわけではないけれど。しかし、ぐいぐいと引きずり込む。143分だと云うけれど、長いとは感じなかった。私が観た回は9割方が50代以上だったのだけれど、そういえば途中でトイレに立った女性がお二人おられたのだからやっぱり長かったのかと思った次第。
 今回の作品は東宝とフジテレビそして製作プロダクションであるアルタミラピクチャーズの三社の製作となっている。そして配給は勿論東宝。はっきりいってこの映画はその中で役所広司が語るセリフじゃないが、「日本の警察、検察、そして裁判というシステムという国家権力に対する大批判」である。それも「皆さん本当に気をつけなきゃダメですよ、簡単にウンといっちゃうとチャッチャと有罪判決喰らっちゃいますよ、尤も必死こいて否認続けたって十中八九負けちゃうんですよ」とあくまでも官僚である司法にやられちゃいますよ、という話だ。勇気あるなぁ、周防正行!良くあの保守的な東宝がこの映画に金を出し、配給をしているなぁと感心したのだ。
 ところが東宝のお膝元である(あ、松竹も銀座か?!)銀座・日比谷地区で上映しているのがシャンテ3ってのはどうよ。わずか192席である。マイケル・ムーアの映画が232席とか116席の恵比寿ガーデンシネマくらいでしか上映されないのは、まぁ大反発を喰らっている(あの人は分かってないのかも知れないけれど)久間某大臣と同じようなものだからまぁ、しょうがないだろうとは思う。「あの」周防正行が11年ぶりに監督した作品を製作・配給した東宝としてはどんな意図があるのだろうか。ひょっとして東京地裁のあの息苦しさを観客に知らないうちに実感させるという周防正行の意図があって、東宝は涙を呑んで、こうしたのだろうか。まさか、ヒットするとは思っていない、というわけはないだろう。
 ひょっとすると社内で製作側とセールスとの間に齟齬が生じているのだろうか。国家権力に逆らおうとする作品に営業サイドとしては堂々とマリオンのあの飾り時計の横に大きな看板を掲げることを良しとしなかったのだろうか、とまで邪推しながら出てきた。役所広司もたいまさこが好演。周防作品に欠かせない竹中直人も期待にこたえる役回り。ちょっこっだけど笑った。音楽はこれもまたいつもの周防正行の従兄弟の周防義和である → こちら
 主人公の金子を演じた加瀬亮のインタビューはこちら
 そして周防正行のこの作品に関するブログはこちら
 この映画についてブログに書き込むと「おとなり日記」がどかっとついた。旬だな。
 映画を見ながら思い出したこと。警察は引っ張られてきた人間を端(ハナ)から悪いことをしたのはこいつだ、と見なす。ちょいと脅せば自白すると思っている。自白をさせてしまえばどうにかできちゃう。状況証拠だけじゃダメだといわれているけれど、これなんか見ているとそんなことなさそうで、えい!や!っと放り込まれてしまいそうである。
 決めつけるといえば、かつてある企業で広報担当をやっていた頃のことだ。朝の通勤列車に自社の社員が飛び込んだらしいという一報をもたらしたのはある新聞の社会部記者だった。彼はこちらが電話に出るや否や「お宅の社員が飛び込んだ。どんな仕事をしていたのか」と聞く。「今こちらは現地に人を出して確認に入っている。まだ確認できていない」とこたえるが彼は「間違いないんだから教えろ」と迫る。多分そうなんだろうとは予測が立つがことは人の命に関わる問題である。確認できないままにそうだと断定することはできない。そんなこと簡単に想像がつくだろうに、彼はなかなか諦めない。
 ある日社員のひとりが贈賄容疑で引っ張られた。逮捕である。するとまたすぐにどこかの新聞の社会部記者から電話である。彼はなんと切り出したかというと「お宅のさぁ、悪いことやった奴がいるだろ?あいつの自宅住所を教えてよぉ」である。社員は結果として不起訴になったのだけれど、この時はさすがに絶句した。体質は似てくるのだろうか。