ほぼ足りてまだ欲 その先

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「もうしわけない」

 珍しく日本のテレビで豪州のニュースをやっていた。何しろ最近の日本での豪州のニュースといえば調査捕鯨に対する抗議が如何に日本の文化を無視しているのか、というスタンスで語られるものがほとんど。そこにこのニュースが入ってきたからさぞかし、その筋のサイトでは「ほうら見ろ、あいつらはクジラどころか人間にひどいことをしてきたじゃないか」という論調に拍車が掛かるのだろう。
 豪州政府は先住民のアボリジナル・ピープルを親から隔離して白人化のための集団教育を強制的にしてきた。アシミレーション政策の典型的な歴史的過ちとしてそれはそれは有名である。米国でもアングロサクソンの侵略者たちは先住民たちに強制的な白人化政策を強いた過去がある。それはまた悪いことにキリスト教徒たちによって未開世界に暮らしてきた人たちに対して先進たる白人文化を提供することが「善」として信じられていたという時代背景がある。そうして、豪州ではタスマニアの先住民のようにほぼ絶滅されてしまったトライブも存在する。だから人類学上からも非常に興味深い部族が失われてしまった。今でも何人もの人類学者が日本からも世界からも研究調査にやってきているくらいだから人類学的にもまだまだ興味深いのだろうに、当時の愚かしい価値観からは自分たちの価値観に親から隔離してでもどうにかしなくてはならないと思ったわけだ。しかも、1996年の選挙に勝ってついに歴代最長の政権を築いたジョン・ハワード保守連合政権首相はとうとう最後まで、このかつての全く誤った人権蹂躙政策について豪州政府の非を積極的に認めることをしてこなかった。
 しかし、昨年の総選挙でものの見事に政権はまた逆に触れて、ケビン・ラッド労働党政権となった。今朝のSydney Morning Herald紙は大きな文字で「Kevin Rudd says sorry」の4語であった。キャンベラの連邦政府議会でのケビン・ラッド首相の「謝罪演説」はテレビで全豪に生中継され、その演説はこちらのSMHのサイトで動画で見ることが出来る。彼は事実をひとつずつ取り上げ、その度ごとに「I am sorry」と率直に謝意を表しながら28分を超えるスピーチをした。「遺憾と感じております」ではなくて「すみませんでした」という率直なものである。演説が終わると議場の議員たちも、傍聴席も、そしてこの演説を生中継した会場の人たちも立ち上がって、ケビン・ラッドに拍手を送っていた。こうしたアボリジナル・ピープルの子どもたちのことをLost Generationと呼び、「裸足の5000マイル」という映画にもなった。
 実は英国と英国の植民地であった豪州の間にはもうひとつの子どもについてのあまり思い出したくない、しかもそのままに放置されてきた恥ずべき過去がある。それは豪州連邦議会図書館のサイトにもきちんと取り上げられてあるのだけれども、「Child Migrants from the United Kingdom」のことである。日本ではほとんど知られていないけれど、1922年から1967年の間に15万人もの平均年齢8歳8ヶ月という幼い子どもたちが英国からカナダ、ローデシア、ニュー・ジーランド、豪州に「良き白人を絶やさないために」という理由をつけて送り出された。豪州には5千人とも1万人ともいわれる子どもたちが英国内の児童施設を中心に送り出されたというものである。本件に関する豪州連邦政府の公式報告書は2001年8月30日に発表されており、豪州連邦政府図書館のサイトからその報告書(Lost Innocents: Righting the Record - Report on child migration)をダウンロードすることが可能である。(豪州政府はこうした政府発行物のほとんどをウェブ上からすぐに落とすことができるようになっている。ネット環境のインフラ整備ははっきり云って日本にはるかに追い越されてしまったのだけれど、公的機関のこうした公開性ははるかに日本を凌駕して進んでいる。)ところが、この発表のすぐ後に米国、ニューヨークのWorld Trading Centerが崩壊し、世界は対テロ戦争の話一本槍になってしまった。米国のCBSテレビの「60 minutes」もこの時期にこの話題を取り上げ、英国政府によるその被害者の家族捜しのための母国への旅費の支援がすぐに期限切れを迎えることを非難していたことを思い出す。