ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

じいちゃん

 うちでは「お店のじいちゃん」と呼ばれていたけれど、連れ合いのおやじは硯職人だった。私にとっては単なるパートナーの親だけれど、日がな石の粉だらけの仕事場で、傍らに冷や酒の入った茶碗を置いてひたすら「ごりごり」と石を削っていた。食堂に出てきては煙草に火をつけて「お店のおばあちゃん」に「おかあちゃん、一杯つけとくれ」と声を掛け「いやだよぉ、もう呑むのけ!」といわれてはまぁまぁといいながら旨そうに呑んだ。中国にいっては仕入れたり、書を見て欲しいといわれたりで、結構気軽に出かけていった。
 しかし、日頃は靴を履くのもいやで、雪駄、それも一番安い古タイヤを裏にしたような奴を好んで履いた。冬はボタンのジャンパーを注文で作らせてきていた。自分の好きな格好になっていないと全く着たくない。注文したものがそんな上着か、と思うようなものを着ていた。
 そのじいちゃんの写真を久しぶりに見た。それもBSのテレビ番組に甥っ子が出て喋っていたからだった。