ほぼ足りてまだ欲 その先

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オーストラリア鮭養殖産業

 オーストラリア、タズマニア州の鮭養殖業界第一位のTassal社*1と第三位のAquatas社*2が合併することになった。一般消費者がわかるはずもないのだが、実はこの両社からのサーモンはかつて日本に輸入されていた。Tassal社は銀箱と呼ばれ、Aquatas社から来たサーモンは緑箱と呼ばれていた。
 何しろ日本には近海物はともかく、北米からの天然物、チリ、ノルウェースコットランド等の各地からどんどん鮭が入ってきている。オーストラリアの鮭が日本に入り始めたのは多分1990年代に入ってからであろう。当時はキロあたり1200円ほどしていたはずである。しかし、ノルウェー・サーモンの物量作戦、チリ・サーモンの価格作戦に翻弄された。今頃いくら位しているのか(輸入されているのかすら)知らないが、1990年代後半にはキロあたり7-800円程度にまで下がっていたはずである。
 ところがその同じサーモンがフィレになってオーストラリアのスーパー、例えばWoolworthの店頭に並んだら、それはキロあたり35ドルほどもしたはずである。今のレートで云うと日本円で2800円ほどもする計算である。当時のオーストラリア、シドニーでは安く買おうとすると牛肉の薄切り、それも牧草で育ったくさい奴ではなくて、grain fedという穀物で育てた牛肉でも、行くところに行けばキロあたり7.5ドルで買えた。つまり日本円で600円ほどである。つまり、オーストラリアにおけるサーモンは日本における牛肉なのである。こんな高級食材をあの質素の権化のようなオージーが買うわけがない。スーパーでサーモンのフィレを眺めていると横からすっと手が伸びてそれをとった人がいた。”すごいっ!”と思わず心で叫び、視線は手から顔へ。あ、日本人だ。
 わが家ではフィッシュ・マーケットまで行って一匹まるごとギリシア人の店から買っていた。で三枚におろしてもらうんだけれど、頭も骨もそのまま箱に入れてもらって大事に持ち帰る。頭は鍋に。骨からは中落ちを削ぐ。
 業界は大量に日本マーケットで捌けるのではないかと思っていた。なにしろあの清冽なタズマニアの水で育っているのだから、全く食材として問題がない。オレンジ色の身を見ているとこれはうまそうだと心から思う。そして!何よりもかによりも、このタズマニアのアトランティック・サーモンを原料にしたスモークト・サーモンの、まぁリッチで芳醇な(何とも陳腐で申し訳ないが)味は本当に何物にも代え難い。フィレ肉はどうでも良い。日本のマーケットでは鮭をこのように十分な食材として食べる習慣がきちんとできなかったのだから。せいぜい回転寿司のネタとして買いたたかれるのが関の山だから。しかし、この日本のサーモン文化はまだスモークト・サーモン文化を育てられないでいると思う。
 そのオーストラリア鮭養殖産業も米国、カナダの鮭輸出の圧力にさらされていた。WTOに提訴までされていた。オーストラリア側の言い分は「天然物が入ってくるとそれまでオーストラリアに存在しなかった虫や細菌が入りこむ恐れが否めないのだ」という論理である。実際にはこの価格が大きく崩されるという危惧があった。米国はオージービーフの市場として存在する米国ビーフ市場を閉鎖するぞと脅しをかけていたことを思い出す。どうなったのだろう。

*1:Tasmania+salmonからついたと思われる社名

*2:この意味、構成はすぐわかる!水を意味するAqua+Tasmaniaという組み合わせの社名。双方共に地名にちなんだ名前というところに意味がありそう。これだけ経営母体が変われば固有名詞から社名をつけていたらどんどん実状から離れていってしまう。