ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

昨日の散歩

 久しぶりにお会いする仲間と日暮里で合流する。日暮里駅北口に上がると工事中の通路は乗り換えの人たち、スカイライナーで成田から到着したばかりという感じの大きなスーツケースをごろごろさせた人たちでごった返していた。私は時間かっきりに改札口を出たが、仲間は既に勢揃いである。谷中の側に出るとぞろぞろ歩く方たちがあっちにもこっちにも。平日の昼下がりくらいにしかここに来たことがないものだからその人出の多いことにびっくりする。それもやっぱり朝の「ちい散歩スペシャルの影響は相当に大きいものがあるだろう。その証拠に階段を下りて谷中ギンザにさしかかるともう「昭和テーマパーク」とでも云わんばかりのにぎわいだ。お店の方々が既存の観光地のお土産街のように客あしらいに慣れきっているという訳でもない雰囲気が感じられるところが重要で、これが例えば浅草の喰いもの屋のような雰囲気になって来ちゃったら私は多分行かないだろう。
 総菜屋の店先でコロッケやメンチカツを揚げているお店が2-3軒あってその前はどこもそんなものを買い求める人の行列が出来ている。そこに行きかかる人たちが「ちい散歩で出てたねぇ」と語っている。恐るべし。一軒一軒の軒先にはちい散歩で説明していたように袖看板がぶら下がっている。
 谷中ギンザを突っ切ってから左に曲がり、その通りを徹頭徹尾辿る。つまり区の境をずっと行く。荒川区から台東区、そして文京区へとあっという間だねぇ、と話しながら。三崎坂の道を通り越すと道は驚くほどのくねくね道となる。「ヘビ道」といったり中には看板に「Snake St」なんて書いているうちもあるけれど、こんなところにも車が入ってくるとびっくりする。やたらと曲がりくねっているのはどうも元は川だったんじゃないのかと思っているうちに通りに面して藍染屋さんがあるのを見つけて、あぁやっぱりなと思うまもなく藍染大通りと書かれた商店の繋がりに到達して、またまたあぁやっぱりなと。その通りをそのまま突っ切れば日本医大根津神社の間の道につながることがあとで地図を見てわかった。
 その先を行くと通りは少し広くなり、両側に見過ごせないつくりの家が点在する。「染物洗張 創業明治28年」と書かれた丁字屋さんというお店がとても綺麗にメンテされていてお店の誠実さが雰囲気に出ている。われわれがたかっていると次から次にお客さんが覗き込む。しかし、多分ここのお店も人が出入りする割には売り上げにつながらなさそうだ。それがこうした近場のお店の悩みの種だろう。お向かいの全くの個人のお宅もなかなか風情のあるつくりが残っているのだけれど、暮らしておられる方からするとそんなに便利なわけでもないだろうし、なかなか双手をあげてとはならないだろう。しかしながら通りかかる側から云うとそんなつくりや雰囲気を見るとなぜか嬉しくなるのはすでに楽しみが後ろ向きにしか見いだせていないからなんじゃなかろうか。
 三浦坂を上がるつもりだったけれども途中にあった路地に入り込む。しかし、暮らしておられる方からすれば大変に迷惑な話で、この上天気なんだから扉を開けて風を入れようといったってこんな怪しい雰囲気のオヤジがカメラを抱えてうろうろするんじゃ、たまらねぇってなもんだろう。だからそんなところに差し掛かった時はさっさと歩いて、カメラを構えるチャンスが対象も時間もぴったり来るときに限ってチャッと撮り、そうでないときはそんなことはすっぱり諦めて、すぐさま通り抜けねばならぬ。
 三浦坂を上がるのはその上の「ちい散歩」に出てきたパンやさんの立派なヒマラヤスギを見たいからだ。しかし、三浦坂に曲がった瞬間にわかった。あ、この坂は前に下ってきたことがある。そうそう、あの「ねこや」の坂だ。案の定ねこやの前には人だかりだ。以前に通りかかったときよりはもっともっと外に出してある展示物が増えている。確かあの時も中には入らなかったのだけれど、今回も中には入らなかった。というのはあのお店の入り口はどうも男には狭く見えて、中にはいると身体を動かすだけで何かを壊しそうな、そんな不安を持つからである。そう思って外に佇んでみると、その辺にいる所在なげな様子なのは男ばかりである。坂を上がりきって右に曲がると、お〜っ!と思わず歓声をあげたくなるヒマラヤスギだ。これが鉢植えから始まった木なんだなんて誰も想像が出来ない。杉の右側の道をとろとろと下り始めるところに乗用車が入ってくる。若い男が運転して横にこれまた若い女が乗っている。ふ〜ん、この辺の人なのかねぇ、慣れた様子だが、と思っているうちに今朝の「ちい散歩」に出てきたおばさんが出てきた。車はこの先には入っちゃ行かれないよと云われたのか、バックしていく。しかし、今の車はみんなフェンダーミラーじゃなくてドアミラーだ。後ろを見ながらバックしているうちに右側のミラーが横に立っていた植木にあたって、ガシッと音を立てる。こりゃ慣れちゃいねぇなぁ、と気付く。随分と近代的に建て直した様子のお寺とその隣の山門を落ち着いて見ることもできゃしない。結局この車は下の駐車場のところでようやくUターンをした。
 われわれは言問通りを右に折れて下る。赤札堂の前の道を右に折れると何軒かの一杯飲み屋がある。店の引き戸は開いているのだけれどのれんの出ていない店を友達が覗いて「四人なんですけど、まだ早いっすかねぇ」とお伺いするとOKが出た。カウンターに5-6人分の席があり、テーブルが三つ。ビールを戴き、突き出しをつまんでいるうちにおかみさんが出してくれたのは新じゃがのあっつあつの煮物。旨いなぁ、これは。しっかり味も染みていて。葱鮪煮にしても薄い汁で出汁がきいておいしい。ビールはそうそうに切り上げて浦霞から東光という山形の酒にいってじゃんじゃん呑む。セーブするつもりだったのになぁ。カウンターで呑んでいた二人連れが結構早めに切り上げたなぁと思うまもなく戻ってきた。なんだろうと思ったら眼鏡を忘れて取りに来たというのだ。老眼鏡じゃあるまいにと思うのは私なんだけれどね。で、この二人連れがそのまま今度は腰を据えて呑み始めたので、一緒になってワァワァと呑んだという顛末である。私の記憶はもうそこから先はぷっつり切れておる。忘れないように書いておこう。店の名前「里」根津2-18-3。