ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

ピンクの犬

 酔っぱらったときの手慰み話のひとつとして私には「ピンクの犬」というものがあります。これは娘がまだ幼稚園の時のお話で、その幼稚園では毎年餅つきという行事がありました。どこの幼稚園でも必ずある類のものでございます。当日は餅米を蒸すせいろとガスバーナーを持ち込んでくるその類の業者さんがおられて(そういう出張商売があることを知りませんでした)よいしょ、よいしょと杵をふるって餅をつくのはお父さん、こねるのはお母さんと相場は決まっております。そして子どもたちは小さな細い杵を交代でふるってつきますね。
 一週間前ほどに連れ合いから「幼稚園が手伝って欲しいっていっているんだってよ」と聞かされた。なんでなのか、それまで確かに幼稚園に送りに行ったり、迎えに行ったりするのは何回か連れ合いの代わりに行ったことはある。どうして俺なんだかよくわからない。他にもたくさんいるだろうに。なんで俺にいうんだろうということになりますよ。
 それでも別にやぶさかじゃないから当日いわれた時間に行ってみると、もうひとりのお父さんと私とふたりだった。で、渡されたのが、その「ピンクの犬」のぬいぐるみだったのである。つまりぬいぐるみを着て子どもたちの餅つきで盛り上げてくださいということだった。それにしてもピンクはねぇだろうともうひとりのお父さんを見ると彼は既にブルー基調の猫を着ている。くそ、ちょっと遅かったからピンクになっちゃったのかぁ。やだなぁ、って思ったけれど、考えてみたらぬいぐるみを着る時点でもうどうでも良いじゃねぇかってもンだ。
 で、なんで私にその声がかかったのかがこれを着たときに氷解した。このぬいぐるみは小さいのである。私くらいの小兵(うまい表現ですなぁ、ちびだなんていうと嫌みには聞こえますが、これならそうでもない・・)だからこそ着られるわけで、あっちのお父さんも見るとほぼ私と同じ背丈でございます。幼稚園の先生も、そういう目でお父さんを見ているということでございますなぁ。
 いざ、その格好で園児の中に出ていくと、みんながわぁ〜!といってくれたりして、やりがいがあろうというものだ。一緒に餅をついているうちに、どこに行ってもその類のガキはいるもので、私のぬいぐるみの尻尾を引っ張る奴がいる。無言で払っているのだけれど、そういうときのそういうガキはすぐに調子に乗る。自分がそうだったからすぐにわかるのですな。
 最初のうちは小さな甲高い声を出して「やめて、くれよぉぉぉ」とやっていたのだけれど、そいつはまとわりついてやめない。とうとう大きな甲高い声で「やめてくれよぉ!」といったら、こいつが今度は「あ!こいつ人間だぞ!」というのである。おまえは今の今まで、俺を本当の犬だと思ってたのかっての!このやろう!
 とうとう、尻尾を握って私をぐるぐる回そうとする。堪忍袋の緒が切れてとうとう野太い声で「やめろっつってんだろっての!」とすごむと彼は逃げていった。教育上、大層問題だったかも知れないが、そのまま知らん顔をしてぬいぐるみを脱ぎ、娘と手をつないで帰宅したのでありましたんです。
 あいつ、もう覚えちゃいないでしょうねぇ。