ほぼ足りてまだ欲 その先

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公認ガイド

 民主党参議院議員選挙公認候補になる予定の有田芳生が自分のサイトにこう書いている。

国家資格を持つ通訳案内士をないがしろにせんとする国交省の動向はおかしい。通訳案内士法の改悪を許してはならない。

 これはなんのことかというと、これまで発行対象の中国人観光客に対するビザの制限を大幅に緩和するという動きに端を発している。
 なにしろ銀座や秋葉原なんかに行ってみればすぐに分かるのだけれど、中国人の観光客は随分増えている。ブランドものや電化製品を群れをなして買っていく。美味しいお客さんだ。
 かつての日本の観光団が欧州のブランドショップを席巻していたことを想い出させる。当時、ニューヨークに立ち寄るチャンスがあって友達から頼まれていたので某ブランドバッグやさんに入ったら、それはそれは木で鼻を括った対応をされて鼻白んだ記憶がある。
 制限を緩和して、これまでの年間101万人の旅行客を一気に1600万人に増やしてどかっと儲けようという目論見だ。なにしろ国交省は「ウェルカム・日本」とかいうキャンペーンをやっているらしいから、その意識は良いんじゃないのということになるのだけれど、よろしくないことがある。
 それでなくても注意深く観察してみると分かるのだけれど、殆どの中国人の観光ツアーを引率しているのは当たり前のように中国人である。
 しかし、日本には「通訳案内士」という国家試験資格がある。「報酬を得て外国人に付き添い外国語を用い旅行案内をすることは、通訳案内士法により、資格を得た上で、都道府県に登録する事が義務付けられている(ウィッキペディア)」のである。
 通訳案内士法にはこういう規定もある。

(通訳案内士でない者の業務の制限)
第三十六条  通訳案内士でない者は、報酬を得て、通訳案内を業として行つてはならない。
(名称の使用制限)
第三十七条  通訳案内士でない者は、通訳案内士又はこれに類似する名称を用いてはならない。

 つまり、今、殆どの中国人観光ツアーでガイドをしているのは中国からやってきた、あるいは日本に暮らしている中国人で、通訳案内士の資格を持っていない場合、この法律に違反している。今ですらそんな状況なんだから、このまま16倍の観光客がなだれ込んできたら、全くこの法律は無視され、国家試験の難関を勝ち抜いた通訳案内士の資格を持った人たちはあっという間に意味がなくなり、生活が圧迫されていくことになるということなんである。
 実はこの試験は大変な難関で、語学ができればよいわけではなくて、日本の歴史・地理・動植物分布等に至るまでの知識を試される。
 しっかりと外国からやってくる観光客にレベルの高いガイドを提供しようというのがそもそもの考え方だ。
 欧州あたりでは(もちろん国家によるけれど)国家レベル、あるいは州レベルでガイドのライセンスが設定されていて、それを持っていないとツアーをガイドする資格がないという規定は良くある。だから日本の旅行者のパックト旅行に参加してみるとよく分かるけれど、現地現地でローカルのガイド資格を持った人が乗ってくる。これは質の保持とともにそれによって生活をしているガイドの生活を保護するという、いってみればアメリカのユニオン的な、あるいは古く遡って欧州のギルド的な国家ポリシーでもある。
 しかし、観光庁は「国が今後策定するガイドラインに沿って地方自治体や旅行会社が独自に実施する研修を受ければ活動できる。地方で不足する通訳案内士を補完する位置づけで、アジアの言語が話せる人を増やす狙いもある。通訳案内士の国家試験は引き続き実施する(Asahi.com 2010年5月14日19時38分)」方針だとしている。
 法律に現実が追いつかないから、法律をなし崩しにしようというわけである。小回りのきく法改正、ということがいえるのかもしれないけれど、現状を無視した場あたり的改正案といわざるを得ない。根本的な改革を目指すべきであって、これでは無闇と有資格者をないがしろにすることになる。
 たかだか13,500人程度の人間はどうでも良いや、1600万人が落としていく金の方が大事だというのであれば、それは国家として機能しないということだ。
 この国は資格保持者を本当に大切にしないからなぁ、なんでも。そんなんだったら国家試験なんかにするなよ。公益法人にしてそこに管理させて天下りの受け皿として機能していれば、その試験を受けて頑張った人たちはどうでも良いという姿勢が見え隠れする。