それはSydneyに暮らしていた頃の話なんだけれど、今のベンチャーズのリード・ギタリスト、ジェリー・マッギィーが大好きで、ベンチャーズが好きなんだけれど、彼の演奏コピーだけが大好きな友だちとベースのオージーの三人で、ベンチャーズ・バンドをやったんだけれど、その練習スタジオはいつも同じところだった。ところが今の東京のあちこちにあるような小綺麗なスタジオとは似ても似つかないスタジオで、多分元は倉庫。しかも、その倉庫をリファービッシュしてあるというのだったら、なんだかニュー・ヨークのソーホーあたりのそんな施設みたいに聞こえるんだけれど、実はそこここを囲ってスタジオに仕切っただけというなんだかなぁな代物。
あの辺で練習スタジオを使った人の話を聴くと、あそこ以外が話題になることがなかったから、多分当時はあのスタジオしかなかったのかも知れない。
ある日、練習にやってくると、入り口に近い一番広いスタジオの扉が開いたままになっていて、通りすぎに中を覗くと、エレアコを抱えた男がひとりいて何か延々と弾いている。練習のセッティングをしながら聴いているとそれがむちゃくちゃ巧いギターなのだ。「巧いなぁ!」といっているうちに二人でハモる声も加わる。とてもよいバランスだ。
練習時間が終わって、帰りしなにまたそのスタジオを覗くと並んでいるアンプを見たら、なにやら文字が書いてある。
そこに書いてあったのは「INXS」だった。
それがハッチェンスが自殺した1997年11月22日以前だったか、以後だったか記憶がない。多分そのあとだったのだろう。