ほぼ足りてまだ欲 その先

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賃餅

 かつて今はなき実家ではこの時期になると近所の「うさぎや」という屋号の餅菓子やさんに賃餅をついてくださいとお願いをした。すると程なくいわゆる伸し餅という奴が届く。それを新聞紙を拡げた上に置いて、割烹着を着たオフクロが菜切り包丁で切っていく。それが来たということは正月がやってくるということを意味するから、子ども心に盛り上がってくるわけだ。
 連れあいの実家にはなんと臼と杵を持っていたのだそうで、東京の下町でこの時期になると自分の家で餅をついたというのだ。今になって考えて見ると、あんな誰も彼もが貧しい時期に、なんで年に一度しか使わない道具を持っていたのだろうか。誰かが実家から持ってきたのかも知れない。
 私のオフクロの岡山の実家に行くと、臼が御影石でできたものだった。しかし、一番身近だった臼がこれだから、自分にとっては当たり前のことかと思っていたけれど、この話をするとみんな意外な顔をする。私が岡山まで行くと、正月かどうかに関係なく、爺さんが餅をついてくれた。今から考えてみると贅沢この上ない。あの擦れ声は今でも忘れられない。
 今は家族の構成人数が極端に少なくなったから、賃餅なんて看板が出ていても、その顧客の殆どは大きなお供えを注文する商売やさんのようだ。こうなると結局サトウの切り餅のようなものを買ってきて食べるということになる。いつまで経っても本物の餅を食べるチャンスがなくなっていく。