ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

散歩

 ある人にお会いする用事があったので、日本橋室町に出かける。地下鉄を降りて外に出るとこの界隈も久しく歩いていないことに気づく。アポイントメントの時間まで15分ほどあったのでそのビルの前を通り過ぎて一本向こうの通りに行ってみると、そうそう、この辺はまだ昔からのお店が残っている。
 落ち着いた風情の小さなお店があって、なんとなく自分がおもしろがる匂いがする。筆が見え、ちょろっと硯が見え、ひょいと横を見ると日本の伝統の顔料が瓶に入って並んでいたりとなんだか洒落た日本の筆記用具を売っているお店である。店頭の便箋やら封筒やらが置いてあるところにちまちまとポチ袋がある。
あ、そうだ、ちょっとなんか買っていこうと思ったら、そこへ私よりちょっとお歳の女性が正にそのポチ袋を探している風情で動かれない。すると若いけれどきちんとした女性の店員さんが「どの様なものをお探しですか?」と尋ね、その方は、「法事の時に食事をするのですが、そんなところの方にちょっと差し上げるのによいような袋をねぇ・・」と仰る。あ、なるほど。法事は参列された皆さんで食事をする。フォーマルな法事では仏様の想い出を共有できる方をお招きして法要をとりおこない、その後ご住職もご足労していただいて、きちんとしたところで食事をするものだったんだなぁと思う。わが家の法事は先日もお寺さんに姉弟夫婦が集まって法要をしていただき、塔婆をいただいて墓参りをし、そのまま実家に戻ってみんなで鮨を食べてだべるだけである。でも、その方はちゃんと心付けをお出しになるわけで、それはそのままそんなところで会食をされるということを意味する。
で、結局店員さんのお薦めは、何の模様もない、全くの無地の和紙で創った横73mm縦120mmの手頃なポチ袋。なるほど。わたしはもう一回り小さな猫の絵のポチ袋と一緒にこれももとめた。こらこら、人まねをするな、といわれそう。なんだか、日本の慣習という言葉を想い出される。
 あとで良く屋号を見たら「有便堂」さんといってかなり著名な日本画材のお店だそう。ここに店を移したのは戦後だそうだ。

創業は大正元年。創業時は、千代田区九段上に倉庫を構え、書画材料を風呂敷に包んで得意先に届けたり、売り歩くなど、行商のようなかたちで商いをしていました。

 連れ合いの実家は亡くなった父がはじめた書道用品屋だけれども、やっぱり戦後にこちらのように風呂敷に包んでお届けする商売からはじめたといっていた。なるほど、今だったらネット商売と同じかもしれないと思う。
 約束の方から2時間近くもお話をおうかがいして八重洲のブックセンターへ向かう。日本橋のたもとの天ぷら屋さんが綺麗なビルになっていた。昨日今日の話ではなかろうけれど、気がつかなかった。西川が工事のようだ。COREDO日本橋というビルは異様である。なんだかおどろおどろしい。震災が来たら怖そうなビルなり。
 丸善の今の本屋の先に店頭ディスプレイに万年筆の絵が描かれている店を見つけ、ふらふらとはいる。万年筆のショーケースを覗くと「現金5000円以上30%引き」と書かれている。惹きつけられる。覗き込むとパイロットの昔ながらの万年筆のような真っ黒な軸のものがあって、定価は1万円と書いてあるから、これなら7千円になるということである。息せきって、店員さんにお願いして太いペン先のものを見せていただく。Bと印されたものを試させていただいたけれど、驚くほどの太さではなくて、物足りない。これより太いものはと、おうかがいすると、おぉ〜まさにこれ!というものがあったのだけれど、残念ながらひとクラス上の「743」というもので価格が倍。さすがにそこまでは出せない。他でカスタム74Cを探すしかない。しかし、この太めのペン先のものは2000円高い。
 ブックセンターは中の本の配置が大幅に変わっている。何がどこにあるのかわからなくなった。ま、5階の新書、文庫はかわりゃあしないんだから、大きな負担にはならなかったけれど、専門書を探すのは何とも億劫になった。次回八重洲ブックセンターに来る時には、寄り道をしないでここに集中してこないと体力と気力が持ちそうもない。イヴァン・イリイチの本で栗原彬先生共訳という本が出ていた。タイトル失念。


 中央通りを銀座方面に向かう。銀盛堂に入って、そろそろ寿命を迎えつつある革のショルダーバッグのかわりになりそうなものがないかと探して店内をくまなく歩く。しなやかな革でちょっとフラップの止め方が思いもつかない方式のものを発見。店員さんが「面白いでしょ?ぎっちり詰めなければ相当持ちますよ」という。良いかもしれないと思うけれど、ぎっちり詰めない使い方は私には決してできない。いつでもぎっちぎち。というのは買い物をしてもそのほとんどは鞄に入れられるものなので、プラスティックバッグをすべてのお店でお断りして、そのまま鞄に入れるからである。ならばデイパックの方が歩きやすい。しかし、若い時はまだしも、この歳になるとあんまり格好良くないなぁと思ったりする。
 間違っても「TORAYA」の前は通らないようにわざわざ一丁目よりの信号を向こう側へ渡ってITOYAにむかう。そのまま中二階に上がる。Pilot カスタム74Cが目標であることはいうまでもない。女性の店員さんが来られたので、見せてもらう。「この74Cというのは太文字ですか?見せてくれます?」というと「この12,000円のものですね」と値段でいわれてしまった(お願いですから値段でいわないでくださいね)。ぴろっとパイロットのインク壺に先端をつけて書かせてくれる。お、こりゃするするしていて、気持ちがよい。ちょっと太すぎる、と誰かさんに見つかるといわれてしまうことは容易に想像がつく。しかし、これくらい大胆なもので葉書を書きたい。ではこれを、というと「カートリッジが一本つきます」という。あ!そうか、タンク式じゃないんだ!と思わず口走ると、さすがの店員さん。慌てずひるまず「はい、コンパーターがあります」とにっこり。あぁ、なるほど。このルックスでカートリッジはないよな。しかし、「コンバーター」というのは大げさな表現だ。これを刺してインクを飲ませる。

 こんな感じになる。


 6階まで上がり下がってくる。なんだか少しいつもと雰囲気がちょっと異なる。階段を歩き降り始めてわかった。4階が全面改装中なんだ。どうなるというのだろうか。そのうちにわかるだろう。

 いつもなら教文館にも立ち寄るところだけれど、そろそろ腹が減ってきたので、足取りが重い。ならばと東芝ビルの地下二階で皿うどんを食べる。昔はこの手のものがものすごく好きで、いろいろなところで食べたものであった。ここは過去にも何回か入っておいしかった記憶があって久しぶりに食べたくなった。ほとんど一人客。ま、こんなに暑い日が続いたら、チャンポンやら皿うどんを食べようという客はそんなにはいないだろう。
 上の旭屋に行く。裏の売り場に平積みで「落語のコーナー」ができている。買いそびれてそれっきりになっていた「笑芸人 vol.16」があったから手にする。このコーナーはもちろん「タイガー&ドラゴン」のおかげということだろう。なにしろ「東京人」の来月号も落語だと予告してあったくらい。なんだかなぁという気がしないではないけれど、これを志ん朝さんに見せたかったというべきか、あるいは志ん朝さんが急逝したことでなにかのきっかけを作り出したということだろうか。なんと付録のCDがついている。立川談志朗読『鉄腕アトム』、「ラジオビバリー昼ズ031112より」っての。いちいちプラスティックの袋を切らなきゃならないので、まだ聴いていない。しかし、お帳場に持っていってびっくり。なんと税込み2,500円もしやがった。いま一冊はNPO前夜発行の季刊誌「前夜」の4号である。こちらが1,470円。なんだ、二冊で4000円になんなんとする。あぁ、未だに手に入れていないあの青土社の「占領と平和」を買えば良かったかもしれないと思うけれど、そうはいかないのだ。
 炭酸を買っていつものところで飲む。外資系の会社で働いていたのに、その会社が日本の会社に買い取られてしまって、結果的に日本企業の会社員になる知人が高校時代の同級生を伴って現れる。面白かった。来週は元船乗り作家の先輩と呑もうということになる。
 家に帰って寝ようとするとものすごく涼しい風が吹き込む。油断すると風邪引きそうである。