夏に或る編集者と偶然出会って呑んだ店がスズラン通り近辺だったと思い、路地を歩く。ようやく発見。名前も分からず一体いつ開くのかも分からず。灯りは漏れていた。よく見ると浅草のはずれのスナックなんかに書いてありそうな「会員制」なる札が見て取れる。なぁに、そんなものはなんの意味もない。ただし、一人でいったら多分何かいうだろう。あの時は3時間以上呑んでいたような気がするが、多分お店の方は覚えておられないだろう。生ビールを飲み干した客だといったらかすかに覚えているかも。
駿河台下で靖国通りを淡路町方向にちょっと行った右側に帽子屋があるのだけれど、今日はなんの興味もないから通り過ぎる。眼の隅に「五割引」という札が見える。急停止する。よく見ると「閉店セール」としてある。「タムラ」という店で、1980年にアフリカのプロジェクトにいった時にみんなで揃いの帽子を発注した店である。通り過ぎる時には覗き込んでいた。店先には青少年向き、といっても今の子どもたちはここには買いには来ないかもしれない。奥に実はボルサリーノ、KNOXをはじめしっかりしたほんものを置いている。パナマもまだまだ置いてある。それなのにもう店を閉めるのだそうだ。オヤジさんも全く元気がない。昔はうんちくを垂れてくれていたものだった。そういえばおばさんも店にいたことがあるのだけれど、今では全くオヤジさん一人のようだ。バブルの波を乗り越えてきたのに、とうとう店じまい。感慨深い。ツイードの帽子を記念に買う。パナマが欲しかったのだけれど、サイズが合わなかった。ハンチングの類も洒落たものが奥にはいくらもある。残念ながら私にはハンチング系が全く似合わない。11月15日までこうして店を開けているというので、それまでにもう一度行ってみよう。
久しぶりにラッシュアワーの地下鉄に乗る。降りる時の立ち方のコツを掴めない。無骨に「済みませんねぇ」を連発する。それにしても声をかけてもそれに反応する人が全くいない。「失礼」とかいっても”だからなんだ？！”という顔をしている。ひょっとすると「失礼」という言葉を知らないのかもしれない、冗談でなく。
