ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

celebrity

 これってただ単に「有名」ってことのようだ。Oxfordの英英辞典なんかで引くと全然素っ気なくって「a famous person」って書いてあるだけだ。そうだとするとテレビなんかで出てくる「白金のセレブ」なんて全然セレブリティじゃない。だってそれまで誰も知らないもの。親戚か、その近所の人は知っているだろうけれど、今時では隣の人だって知らないかも知れない。そうそう、日本で云われている「セレブ」というのはただ単に「成金」と云うことなわけだ。「“現代の成金”取材に歩いているんですが」と云ったら誰も取材に答えてくれないけれど「セレブ特集にご出演戴けませんかね」といえば「そうですか、では検討させて戴きます」と云いやすいものね。
 本来的な意味である「famousである」という点では何も金があろうがなかろうが関係なくて、だれでも(とはいわないが)famousにはなれるわけで、その点ではテレビ番組の「銭金」に出てくるビンボーさんだって中には既に2-3人のセレブリティが存在している。
 どうも、テレビでしかお目にかからない(週刊誌でも見るか)この「セレブリティ」という言葉にはその元々の意味とは全く異なるニュアンスが民放テレビ番組制作現場を中心に、日本語では創られているということなんだろう。こんないい加減な仕事をしていながら、その片やもう一方では「読んで美しい日本語」とかいって明治大学だかの先生を重用しているんだから「おまえらいい加減にせい!」と云われても仕方がない。
 さて、成金という意味だけならとっても分かりやすい日本語の「セレブ」だけれども、その中に伝統をふまえた何世代にも亘る一族とでも云うようなものに、やっぱりアメリカ人だけでなくて日本人も憧れているんだろうってことはあるだろう。なにしろ何代にも亘って続いていると云うことだけですでに意味があるんだということを書いている本がどっと売れたりするわけで、日本人はこれが嫌いじゃないというよりもむしろ憧れている。
 しかし、何代も続いていない家なんてあるの?これだけ日本人がいると云うことは誰も彼もが何代も先祖がいるわけで、絶えてしまう系統はあるけれども、ここで生きている人たちはなんだかんだといっても続いてきたからこそ存在していると云うことではないのか。
 それでも、確かに何代も同じことをしてきた家というのはそんなにたくさんあるわけじゃないだろう。尤も人間として発生した時点から同じことして暮らしてきた家なんてのはあり得ないんだからそれもただ単に程度の問題にすぎないけれど。
 例えば職人の世界なんかでなにかというと直ぐに「何代も続く」という話を聞くけれど、それほど大したことじゃない。だって何十代も続いている職人だとか、商店だとかというのは周りからの参入を何らかの方法で阻止してきたからこそじゃないかと思ったりする。
 戦後の混乱期にあって、これからどうしようと思案してじいちゃんがこんなことでもやってみるかと始め、私で三代目です、四代目です、という人はたくさんいる。そうして考えると、あの戦争はやっぱりある種の産業攪拌の役目を果たしたといっても良いだろう。
 地方の農業従事者の次男以下に職を与えると同時に近代産業に安価な労働力を与えてきた。地方の豪農が何十代も続いてきているのも、次男以下を外にはじき出すことによって文字通りの一族の立地基盤である農地を守り通した結果であるということができる。
 何世代にも亘って大きな財政的バックグラウンドを持って地元に根付いて延々と貢献してきた、そんなタイプの一種のコミュニティの核となるような人、あるいは一族というものが、ほぼ明治革命、敗戦後の農地改革以降存在し得なかった。それでも都心近郊に行くと今でも一族郎党が地域に分散して暮らしているという人たちは存在する。
 農地改革、戦後の高度成長によるコミュニティの再編成という機運が起こらなかったら地域はもっと一部の人たちの手に握られ続けていたかも知れないという危惧はある代わりに、うまくしていたらコミュニティの繋がりは切られていなかっただろうという推測を立てることは可能である。
 さて、そこで憧れの対象を創り出すことがテレビジョンの大きなマーケッティングのひとつであることは間違いない。想い出してみよう、40年前。私たちに「そんなところに集まる奴らは不良である。日本武道の殿堂を汚すな、これだけの警備費を民間の営利事業に振り向けて良いのか」と迫ったテレビジョンは、今まさに「懐かしいねぇ、良かったねぇあの頃!」と擦り寄ってきているではないか。
 忸怩たる思いで歓迎だ。この話は一体どこから始まってどこに行くのか。つまり、テレビ政策現場に対する批判なのか。金があるからっていい気になるな、と遠くで吠える貧乏人のブログとでも改名するか。