ほぼ足りてまだ欲 その先

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これからの外国人政策

 2月9日、先週の金曜日の朝日新聞のオピニオン欄で「三者三論 移民国家ニッポン?」というタイトルで三人の識者のコメントが掲載されていた。人口減に伴う人手不足への対処として外国人労働者を受け入れるのか、というテーマである。人ごとのテーマではなく、本当に今この時点で真剣に語られなくてはならない重要な問題である。

藻谷浩介 日本政策投資銀行参事役

 過去10年間に登録外国人の増加は60万人に過ぎない。700万人の労働者減が来るのだとするとその半分が60歳以上になっても働こうとする人で充填されるとしても、350万人を外国人で補おうとすると、これはこれまでの7-8倍。今でももう既にひずみが出ていることは認識しなくてはならない。これまでの外国人労働者についての議論は人間を労働力としてしか見ていない。出稼ぎ労働者は母国に送金することが大半だから国内消費への波及が低い。日本社会にとって本当にメリットがあるのか。そしてそれだけの外国人が実際に来るのか。中国だってこれからは人手が足りなくなるのではないか。だから、日本では、まず女性の就労で補うべき。専業主婦1600万人のうち400万人は働けるだろう。外国人に比べたら新たなコストもかからない。しかも国内で消費し、社会保険料の支払い側に回ってくれれば日本経済にとってはメリットがある。女性が結婚後も働くことが有利になる制度を作れ。
宮島喬の発言にもあるように、もう既に外国人の一部を偽装受け入れを始めてしまった以上、この時点で外国人の流入を全面的に押しとどめることも難しいと思うし、専業主婦に働いてもらうとしても、それでは少子化に対処する考え方はどうしたらよいのであろうか。】

坂中英徳 元東京入国管理局長 NGO外国人政策研究所所長

 外国人と共生する社会に日本が向かうかどうかのカギは日本人の外国間にある。戦後の長い間の日本は「人口増加の続く過密社会」という社会事情のもとで外国人の「定着防止」がキーワードだった。人口減なのだから一定数の外国人は政策的に受け入れて行かざるを得まい。外国人を短期間こき使う印象が強い「労働者」受け入れではなく、「移民」の受け入れをこそ検討するべき。将来的に日本国民になってもらうことを視野に入れた、定住促進型の外国人政策への転換である。日本は「人材育成型」の移民政策をとるべき。海外主要都市に「ジャパン・カルチャーセンター」を作れ。これまでの日本は外国人に、夢も希望も与えてこなかった。「今」いる外国人たちの境遇を見るだけでも、人材育成型の移民政策の必要性が理解されるはずだ。
【坂中はかつての東京入管時代に、日本には外国人受け入れのための状況作りが実現できることは期待できない。だから、受け入れるのは無理だ、と主張していた。移民の受け入れに踏み切るべきだという考えを坂中が持つのだとはとても思ってこなかった。】

宮島喬 法政大教授(社会学

 すでに働いている外国人としては60万人いることを考えると既に「労働鎖国」ではない。単純労働者は受け入れないと云いながら、すでに南米出身の日系人を就労制限なしに受け入れ、「技能実習」制度を作って実質的に単純労働につくことを認める「迂回ルート」をつくってきた。これは「偽装受け入れ」である。この現実を知りながら、定住を認める「移民国」になるには国民合意がないという理由で制度つくりに背を向けてきたのが日本政府の実態である。定住を前提に社会の一員として受け入れる「移民社会」になることに覚悟を決め、その制度を調えていくことが望ましい。例えば日本生まれ、育ちの外国人には国籍取得等の相当な権利を与える「出生地主義」を採用することも検討を要する。「日本人の多様化」は避けて通ることがもう既にできないことを認識する必要がある。
宮島喬の専門は欧州に見る移民政策。2006年3月まで立教大学社会学部教授。デュルケムの自殺論翻訳等。】
 非常に限定的な形で外国人を裏口から受け入れ(宮島の云う偽装受け入れ)、労働条件を買い手市場の状態に限定し、周辺環境への政治的配慮を積極的に実施してこなかったのは、それによって雇用側に大きなメリットがあるからであることは云うまでもない。そしてそれによって選挙戦のための大きな支えになるという仕組みが既得システムの中に作られているからである。その存在を不利な立場に追いこむことによって先住日本人に敵対する存在、邪魔な存在、見えない存在に色分けすることで圧迫していくことは雇用者に大きなメリットを創り出すことはもうそろそろ認識されてこなくてはならないだろう。しかし、既得権に裏打ちされたシステム下においては、どうしてもこのシステムを変えていく合意が得られることは起こりえないだろう。儲けることができるシステムをわざわざうち捨てて、180度反対のシステムに移行するための動機付けが現経団連自民党にできるだろうか。あるいは彼らがこの分野にイニシアティブを取ることができなくなるような政治的基盤の大変動が起こりえるだろうか。
 東京地裁が硬直化した判決を放り投げながら、現政権がそれをよそに救済策に取り組み始めた「残留孤児対策」をみると草の根の力を結集したらこれも少しは前進するのかも知れない。