ほぼ足りてまだ欲 その先

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ダイバーショナル・セラピー

 野猿峠の大学セミナー・ハウスで第28回の「日豪合同セミナー」というものが今日、明日で今年も開かれている。毎年6月の第一土日に開かれ、翌週にはどこかの大学で「オーストラリア学会」が開かれる。今年はそれは大阪だという。
 私はこれまでこの「日豪合同セミナー」に数回参加させて頂いているが、泊まりで参加したことが一度もないので日曜日の様子はわからないが、土曜日はオーストラリア大使館からどなたかが来られて基調講演をしてくださる。今年は首席公使のAllan McKinnon氏であった。個人の意見として最近の日豪関係についてコメントされていた。イラクサマワにいた日本の自衛隊を護衛していたのはオランダが撤退した後はオーストラリア軍だった。この話の際に主席公使は「Japanese Engineers」と表現していたが「Japanese Defence Army」といわないのは何かそんな暗黙の了解のようなものが存在するのだろうか。なにしろ米国以外に日本が安全保障条約を交わしたのは豪州ただ一国である。
 この集まりは30年前から始まったのだそうで、これだけ続いてきたのは関わっておられる諸兄姉のご努力のたまものであり、ただただ感謝である。私はただ参加しておいしいところをおうかがいしてきてしまうというなんともずるい立場であり、申し訳ない。
 今年参加した分科会は「ダイバーショナル・セラピー」なるものをお聞かせいただけるというもの。私は2003年にビクトリア州のバララットにある施設を見学させていただいたときに、この言葉を聞いた。セラピーという言葉を聞くと、何らかの療法とでも思ってしまうが、これはそうではなくて、高齢者ケアの現場で最低限の身体的介護、生活支援にとどまることなく、クライアントのそれぞれの個性、人生、バックグラウンドを考えに入れながらこの人にとって楽しめることはなにかと考えていくこと、そしてそのプログラムを実施していくことといったらよいだろうか。現実的には施設介護の現場においては各介護者がそれを考えて各クライアントに接するべきだとされているし、そうしていることになっている。しかし、各クライアントの個性に従って何もかも考え、実行するプログラムをこなすだけの人的余裕を持っている施設はそうは多くない。なにしろ最低限の数の介護者によって運営することが施設の存在を確たるものにする基本だと思っている運営者が少なくないからだ。
 どこの施設でも様々なプログラムを考え、アクティビティを計画する。しかし、それはなんのために行われるのだろうかという基本的なところに帰って考える必要がある。確かに風船バレーなんて面白くないだろうと思っていた。でも一緒になってやってみると結構燃えて熱くなったりする。でも、だからなんだ、という気がしないでもない。ならば、みんなで海に遊びに行った時のことを思いだしてみようといって様々なことを持ち出し、その延長線上で「そういえばビーチボールはつきものだったでしょ?」といってそこでとりだしたらまた意味が違うじゃないか、といわれると、なるほどと納得する。
 身体的な介護をする人、生活的支援をする人、PT、OT そしてDT(ダイバーショナル・セラピスト)が仕事の役割として施設の現場に必要ではないだろうか、というのがこの「ダイバーショナル・セラピー」の基本的な考え方である。しかし、残念ながら日本の介護の現場には未だに確固たる役割として認知されていない。こうした専門職員を抱える余裕が作れる現場が普遍的には存在しない。
 この職種が考え出されたのがオーストラリアだという。豪州では既に30年の歴史を持つが、日本では今日の講師である芹澤隆子氏によれば語られ出してまだ10年ちょっとのようである。私が知ってからはまだ4年にしかならない。なにしろ文献も少ないという。私が見学した施設では、中庭に昔のバス停が作られていると思うと、1940年代から50年代の頃の車が置いてあった。ユニット間の扉は昼間は目立たないような装飾が凝らされていて扉とは思えない状況になっているのだけれど、夜になると実はこれが開けられて数少ない介護者によって効率的に身体介護が出来るようになる。庭があってこの庭は居住者が好きなガーデニングを出来るようにしてあった。日本の老健でも広大な庭を持って畑作業のプログラムを持っているところもあるという。
 私が見学したその施設には薄暗い部屋があって、その中で薄ぼんやりした光量や色の変わる光りや光ファイバーを使った光りの束といったものを使って、いってみればリラックスさせることが出来る(今の人は一発で癒しだなんていうんだろうけれど)空間を持っていた。ゆったりした椅子に座ってその中にいると険しい表情がほぐれてくるような気がする。職員の人たちも利用するという。これを「スヌーズレン(Snoezelen)」と呼んでいるようで、こちらに詳しい解説を発見。日本でも実行している施設があるのだという。