ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

Yellowstone National Park 2日目

 疲れてぐったり寝てしまい、朝5時半に目覚めるが、外は雪がやんでいて、微かに青空すら見える。一夜明ければ「ドピーカン」かと期待はふくらむ。昨日のうちに買っておいた林檎と残っていたバナナ・マフィンで早々と腹を満たす。それくらいで充分なほど昨夜のミートローフが効いている。
 8時にロッジの出口で合流するとドライバー氏は今まさに起きたという風情で部屋から出てきた。よくまぁ、起き抜けに喋り始め、車を運転していくことができるものだと感心する。ちょっと北上してWest Thumbで最初の見物である。なんでこんな名前がついているのか不思議でしょうがなかったのだけれど、イェローストーン・レイクの入江の形が左手を伏せて人差し指と中指、そして親指を伸ばした状態に見えて、その親指の位置がこのいくつもの蒸気が噴出する、木道が整備されている地域が位置しているという事情からだと知れる。これは先達がいないとわからない話だ。
 雪はもうすっかりあがったようで、湖も遠くまで見渡すことができる。驚いたのはこの湖には海のラッコの親戚がいるといい、ガイド氏の話によれば彼らも同じように水面に浮かんでお腹で打ち付けるのだそうだ。これは見られたら面白いだろうなぁ。しかし、そのラッコの親戚はいったい、何を腹に打ち付けるというのだろうか。湖に貝はいないだろうに。吹き上げる蒸気を無我夢中であちらこちらと写真を撮り続けるうちに、途中で隣で撮影していた若い男性が私に向かってしきりに「Sir !」と声をかける。いったい誰に向かっていっているのかと目を向けると、彼が自分のカメラを私に見せる。なんと同じOlympusのカメラだった。こんなことでもこんな処では嬉しい。そのうちレンズの動きが緩慢になってくる。これはきっと寒さのために動きが鈍くなったのかと思ったけれど、とうとう途中でバッテリー切れを起こした。慌てて出てきて部屋に予備バッテリーを置き忘れてきたことに気づく。何という失態だ。ガイド氏に頼んでLake Villageでトイレ休憩を取ってもらい、ロッジの売店で慌てて単三4本で10ドルのアルカリ乾電池を購入。ここでもリチャージャブル・バッテリーは広く普及しているようでそのタイプの充電池も売っていた。駐車場にかかっていた寒暖計を見てびっくり。摂氏1度である。寒いわけだ。この話をするとガイド氏は、でも凍り付いていないからまだ良いか、という。
 途中でイェローストーン・リバーを見下ろす処にやってくるとにわかに空は晴れ上がり、レンジャーが出て止まろうとする車をしきりに「Move !」といって前に動くようにうながしている。何だろうと見下ろすと今や私にとっては珍しくはなくなったものの、結構個体としては大きい方に属するバイソンが数頭、河原に立ちつくしている。ちょっと先に行って数台の車が止まっているところに車の頭を突っ込む。降りて双眼鏡を取り出してその様子をみるとそのバイソンから30-40mほど先になんとグリズリーの親子を発見。長いレンズをつけたカメラを手にした人たちが集まってくる。しばし、佇んで双眼鏡越しに見つめるが屈託のない熊の親子とは対象的にバイソンは全く動かない。警戒しているようだ。
 Canyon Villageにやってくると一天にわかにかき曇り、雪はますますその激しさを増すばかりでなんだか「見物に来た」のか、この季節での「耐寒訓練」にやってきたのか訳がわからなくなってきた。なにしろ雪は横殴りに叩きつける。心の底から真冬の支度をしてこなかったことを悔いるばかりだ。ここでの見物はなんといっても落差94mというLower Fallsと33mのUpper Fallsである。ところがこのLower Fallsのルックアウト・ポイントに立った時が本日のsnowy stormのハイライトだったようで、びゅーびゅーと風は雪のつぶてを叩きつけ、視界はその雪と滝のしぶきでほとんど見えない。今の服装ではとても太刀打ちができない。ろくに写真も撮らないうちに降参である。しきりに「寒い、寒い」と小刻みに身体を抱えて足踏みをすると、新潟から来られた仲良姉妹+1のお一人から「本当に寒がりねぇ」と糾弾されてしまう。いやいや、これでも着るものさえ着ていればどうってことはないんだっての。
 Canyon Villageに戻ってランチにする。カフェテリアに入る。シーズンはじめの店内は何となくぎこちのない店員だらけで、この店も例外ではなくてあっちもこっちも店員もお客も手探り状態。私たちはそれほどの食欲もないけれど、とにかく暖かいものが食べたいと私は「ヴェジタブル・チリ」、連れ合いは「ヴェジタブル・スープ」。しかし、パンが欲しいとレーンを戻って探すも見つからず、店員の若い女性に尋ねると、これで良かったらという雰囲気で小さなロールをくれた。連れ合いも欲しいというと、もう一つ出してくれた。しかし、後で考えるとこれは金に含まれていない。つまり出たところにあるクラッカーなんかを無造作にくしゃくしゃとして食べるのが習慣だったなぁと思い出す。こんなことももうすっかり忘れている。
 「コロンビア」の、これまで探していたけれど日本ではなかなか見つけられなかった深い緑色のジャケットを発見。しかもディスカウントの札がついている。試着してみるとなんとジッパの取り付けが反対になっている。こういうのは問題じゃないのかなぁ。それにしても安い。タイミングもぴったりだ。来年の冬に着るのにもぴったりだ。そそくさと購入に及ぶ。もうこれで寒くなんかない。自分が着ていたウィンド・ブレイカーを連れ合いに渡す。
 この公園の見物の一つで最も北に位置するのはモンタナとの州境にほど近い、Mammothである。ここは非常に含有量の高い石灰岩を含んだ温泉がしみ出してきていて流れていく先々に石灰質で作られた千枚田を形作る。これが実にあちらこちらに次々に出現するのだそうだ。この地域は最初に国立公園に指定されたときにこの地を守るために軍隊が駐屯したのだそうで、その人たちのための家がいくつもそのまま残されているのだそうだ。
 さて、ここから一気に南下する。Norrisを過ぎてGibbon Riverを下った先にあるGibbon Riverを見物する。ここでは雪も降り止んだようで、じっくりと見ることができたけれど、落差94mといわれるLower Fallsの迫力にはとうていかなわないのは致し方がない。どんどん南下してMadisonを過ぎ、昨日見逃したOld Faithful Geyzerを見物に行く。到着してみるとやはり今終わったとおぼしきところであった。ようやく空も少し明るくなり、外れの方には青空さえ見えるようになってきた。この周りにもいくつもその間隙は長いけれどやはり間欠泉もあるし、蒸気が立ち上る地域が連なる。高山植物の花を見つけたりしているうちに時間が来る。Old Faithful Geyserのまわりを取り囲む木道にはいったいどこからやってきたんだというくらいの人たちがもう鈴なりにして待つ。最初にそれほどの高さではないが、「いっちゃおうかなぁ・・」といった風情で何回か蒸気が吹く。ガイド氏の話によれば、これが過ぎるとそれほど高くならなかったりするのだそうだ。三回ほど予兆があってから一気に立ち上る。残念ながら空には雲があって背景として映える状態にはならなかったけれど、実際にここまで来て、寒さに震えながら見ていると本当に素晴らしいことがわかる。Craig Passを通り越してGrant Villageの宿舎にまで帰り着く。
 今日はLake Houseといういわばキャフェテリアでパスタを夕食とする。カウンターで売ってくれたお兄ちゃんがなんだか妙にハイで、浮き上がったジョークを連発しては大すべりで、やっぱりこれはシーズンはじめだからだろうか。
  寒い風が吹き込むLake Houseに入っていくとなぜか皆さん一緒にご飯を食べるという雰囲気になっていたらしくて9人分の席がさっさと構築されて一番入口に近いところに席を取ることになってしまったから余計に寒々しい。こうした時に突出するとなんだかまずいのかも知れないなぁという感覚を持ってしまうところがなんとも情けないのだけれど、そのままその席から離脱することなくそのまま皆さんに加わることになる。すると、姉妹の中のお一人が若いご夫婦の旦那さんに「ではお願いします」という。何をお願いしているのかと思ったら、「ガイドにティップを弾みたいと思っているのだけれど、ご賛同を戴けないか」という話だった。私はそういうことをしたいのであればなにも一律にすることは本来的なティップの精神に反するからあんまり好きじゃない、と思ったのだ。だったらその場ではっきり「いや、私は自分の気持ちに従って自分で判断しますから一緒にするのは遠慮させて頂きます」といえばいいのに、これまたいえないままに場の流れ、場の雰囲気を壊すまいという神経を働かせてしまう。なんとも口程にない奴で、自分のこの感覚がとてもいやだ。ごにょごにょと口を濁し、そそくさとその場で10ドルお渡ししてしまう。
 ガイド氏の説明によると、国立公園の中のこうした施設はNational Park Serviceが入札で委託運営会社を決めるのだそうで、そのためのオファー・プライスを安くするための削減策の一つとして、季節雇用、ボランティアを活用しているのだそうだ。「National Park Service」のサイトを見ると様々なニュースが提供されている。今日昼食をとったCanyon Villageのキャフェテリアでの料理の提供係、キャッシャー、ホールの片付け係、下膳されたものの整理等を担当している人たち、キャッシャーの高齢の女性も含めてみなさんそうした人たちだとわかると、なるほど、それはそれで有りだよと納得ができる。
 部屋に戻るとよほど今日は疲れたらしくばたんと寝てしまっていて、気がついたら夜中で、なんと靴も履いたまま、ベッドの上にうつぶせになって寝ていた。
この日に見た動物:バッファロー:32頭。ELKは15頭。マーモットが2匹。