日頃保阪正康のレクチャーは平日の午前に行われるけれど、これは単発企画で彼が朝日新書から出した「東京裁判の教訓」にちなんで「東京裁判の教訓とは何か」と題したレクチャーである。定期的なレクチャーと比べて出席者の数が少ない気がするし、若い人の割合が高い。先週もやはり単発企画があり、その際彼は「東京裁判」に関する文献について解説をしたのだそうで、これを聞き逃がしたのはあまりにもダメージが大きい。日頃から彼が読み解く昭和の歴史について必ず繰り返す、史実を正確に捉えて、そこから解釈をするが、その解釈は様々な個人個人のスタンスに基づいて解釈することになるのは仕方がない。だけれど、そこで教訓を引き出すことが大変に重要なんだということなのだという。
昭和天皇は東京裁判によって次第に明らかになってきた史実を知って、いかに知らされていなかったことがあったかを知り、軍人にかなり不快感を示していたことが後に発見された富田メモに記載されていた靖国合祀を知ってのあの反応になったと見て良いだろうという。東京裁判の被告選定や判決の軽重には昭和天皇につながる線を消す根本的な考えが明らかに現れている。
保阪正康は前に定期レクチャーでも語っているが、絞首刑に処せられた7名の処刑のあと、19名の岸信介、笹川良一、児玉誉士夫を含むA級戦犯が釈放されたが、近年になって明らかになった資料によってこの19名は(蟄居して何も語らずに逝ってしまった人もいるけれど)戦後の日本社会で米国の傀儡となって「東京裁判によって裁かれる側に課せられた責務」を放棄してきたと繰り返す。
その後の歴史に見るように、裁いた側はその舌の根の乾かぬうちに、スエズ動乱、インドネシア、ヴェトナム、ビルマ、中近東で、ここで裁いたはずのまさにそれを犯して戦闘状況に踏み切ってきた。そして裁かれた側はそれを追求していかなくてはならなかった義務、責務を抱えたまま役割を果たしてこなかったではないか、といわれるとまさにその通りだったなぁとこれまで気がつきもしなかった切り口を提示されて、最初は賛意を示して聞いていたのだけれど、後半に来て、なんだか後ろめたい気持ちになる。
彼は今後やはり朝日新書から三部作の三冊目になる「占領政策の教訓」(仮題)を出版する計画なんだそうだ。
<本日の文献>
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昭和天皇と田島道治と吉田茂―初代宮内庁長官の「日記」と「文書」から
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尚、実際には保坂はまだまだ多くを語ったのだけれど、ここでは自分のメモ代わりとしてこれだけをさらっておく。