ほぼ足りてまだ欲 その先

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脱北日本人

 昨日の新聞では東京に住む67歳の脱北日本人妻が逮捕されたと報じられていた。中国人の男女4人を親族と偽って不法に入国させた罪だという。この人は2008年10月の週刊誌・読売ウィークリーの記事、『脱北日本人妻 顔出し激白「早く終わって!金正日体制」』 に登場した脱北日本人二人のうちのひとりで、この時のインタビューでは北朝鮮に子どもや孫10人を残してきているといっている。福井県出身で1961年に北朝鮮に渡っている。
 このインタビューでは「2001年、日本の知り合いに電話でもして支援してもらおうかなと中国に行ったら、そこで知り合った日本人の会社経営者が「帰国もできる」と教えてくれて、日本に来たんです」と答えている。
 昨年の4月19日に開かれた「北朝鮮帰国者問題を考えるシンポジウム」(こちら)では「ある日、ぜんぜん知らない男の人がきて、中国に行って日本に電話をかけてみないかと言われたそうです。帰国者や日本人妻がどこに住んでいるかを知っていて、そのような話を持ちかけてくるブローカーのような人がいる」「北朝鮮から中国に逃げてきた人をブローカーの人が売り飛ばすという話を聞いていて怖かった」と報告されてもいる。
 しかし、昨日の新聞が伝えるところでは「北朝鮮人ブローカーの手助けで脱北し、中国人の女とその夫の池容疑者に紹介され、かくまわれた。その際、池容疑者らから斎藤容疑者の親族を偽装し日本に入国することを持ちかけられた(毎日新聞 2009年3月8日 21時01分最終更新 3月8日 23時27分)」と説明していてそこの事情が異なっているが多分これが本当のところだろう。
 脱北者が中国に脱出し、そこで金稼ぎの材料にされてしまった例はいくつか既に報じられているから珍しいことではなさそうだ。
 いずれにしろ日本はアジアの中にあってそれでも比較的安定した収入が得られる国でもあるし、当然の如くに人々はチャンスがあれば日本に入って稼ぎたいという傾向にはなる。どんなことをしても稼ごうとすれば、条件は日本の中では劣悪だとしても、母国に比べれば遙かに容易に高い収入を得ることができる。
 一般的な在留資格の中では、「原則として日系三世まで(未成年・未婚・被扶養者については四世まで)身分に基づく在留資格が与えられる」というものがある。これは経団連を中心として外国人労働者を導入するための一手段として作られたけれど、最初は日系二世までだったものがここまで拡げられてきた。このシステムでも様々な策を弄する輩が登場してきた。現地で自分は日本人の子どもだから日本に申請して働きに行きたいと思った人が地元のその種のブローカーに頼んだところ、日本からの返事は認められないという結論だったと本人には通知をし、実は日本から来た書類を全く関係のない人間に高く売り飛ばし、その本人になりすまさせて日本に送り込む、なんていうことをしている人間も報告されている。
 人道的な救済措置という考え方で作られたシステムだとしてもその裏に利権が絡むシステムとなってしまっているのが現状だということができようか。
 「外国人の研修・実習」ビザにしても、上記の日系人在留資格にしても、いずれも外国人を労働力として捉えようとするところから考え出された制度だけれど、それが一種の特権的利権となっているのには受入側の脇の甘さにも要因はある。とりあえず安い人件費を実現するだけのために考え出されているからでもある。
 今回の事件についても、だから脱北して逃げてきた日本人だけに罪があるとするのは如何にも短絡的だといわざるを得ない。彼女自身は二重、三重の被害者だといえるのではないだろうか。受入のシステムをより慎重にしていくしかない。かつて中国からの帰国子女を騙って既に本人が帰国する前に入国していた中国人が摘発されたことがあった。
 後手後手にまわって後追いで作られる政策に法的システムと実際にその法の施行を裏付ける体制はそのまた後手に回って作られるわけで、日本の官僚組織は現場主義ではないから容易に書類だけで通過しうるという弱点をものの見事に突破されてしまう。
 夕方の民法放送のワイドショーあたりでしきりに「入管Gメンに密着」企画が流されるのは不法滞在はしょっちゅう摘発して入るんだぞと脅かすためで、一旦入ってしまうと例のフィリッピン人親子のケースで見るように今更帰れと云われても帰ることができないというケースがどんどん増えていく。「人道的解決」という言葉は彼らのために与えられるべきではないかという気がする。
 米国ではこれまでにも何回か「不法で入ってきて暮らしている人たちは申し出てくれ、合法滞在にするから」という手段を執ってきた。そうでもしないと飲食産業、農業等が立ちゆかなくなってしまうからである。豪州でもそうだけれど、未だに農業の収穫期には非正規労働者がいなかったら成り立たない。
 それでも米国に限らずどこの国に行っても外国人社会では「いつどこでどんなイミグレ(入国管理事務所)の立ち入りがあった」といった話がぽんぽん飛び交う。
 日本でも考える時期が来ているような気が知る。「一気に不法滞在を合法化してしまう」政策まではすぐには受け入れがたいにしても、ただ単に労働者として移動してくる人たちを限定して考えるだけ、という状況から一段超えて、「移動してくる人」を受け入れるにはどのようなシステムを確立しなくてはならないかという観点から語る政策方針を確立する必要があるだろう。それを考えるのは官僚ではなくて政治家の仕事だと思う。そしてそれを具申するのは霞ヶ関が大好きな御用学者ではなくて、人間の人間としての本来的な自然な発露である「移動」を考える哲学を持った学識経験者だろう。
 もちろん「日本は鎖国するんだ」という政策をとるのもひとつの選択肢だろうとは思うけれど、多分それは将来的にはこの国を滅ぼす結果となるだろう。

カルデロン・のり子さんの件

 東京入国管理局は9日、一時滞在の仮放免期限を迎えて出頭した父親のアランさん(36)を強制収容。母親のサラさんと、のり子さんについては、今月16日まで仮放免期限を延長し、その間に帰国日を決めるよう二人に求めた。森英介法相は6日の記者会見で、「子どもさんに会いたいのであれば、上陸特別許可を出すこともやぶさかではない」と述べている。(東京新聞2009年3月9日 夕刊)

 今月16日というのは来週月曜日のこと。一方、家族が暮らしていた蕨市市議会は3日に家族の在留特別許可を求める意見書を全会一致で可決したとも伝えられていたが、法務省はこうした動きを斟酌するつもりは全くないということだ。
 法務省が発表した統計によると2007年の強制退去者は45,910人で、在留特別許可対象者は(その内訳は不明だけれど)7,388人にのぼる。しかし、法務省はどのような場合は認められ、どのような場合が認められないかという個別案件に関するその基準のようなものを全く発表していない。そこが問題だという考え方もあるが、それを明確にしてしまうとその裏をかくケースを生み出すという考え方もあるようだ。
 これとは異なる話ではあるが、難民認定についてもなぜ最近はビルマからの難民認定が増えている傾向にあるのかという点などについても法務省は別段その中身を明らかにしていない。