ほぼ足りてまだ欲 その先

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無届け

 名古屋市緑区籠山で3階建ての建物の2階から出火。60代とみられる男性2人が死亡、70歳代の男性4人が重軽傷したという事件があった。

 グリーンライフビルという名前のこの住宅には高齢者を中心に従業員1人を含む男性ばかり23人が住んでいて、このうち46歳から88歳までの19人が生活保護の受給者。元は建設会社の独身寮だったもの。部屋の広さは4畳半ほど、部屋代と食費、光熱費などあわせて月額約8万5千円ほどで、50代単身の平均的な生活保護費、月額11万円余りの3分の2以上。
 名古屋市への社会福祉法の届け出はなく、市は施設に対し、無料低額宿泊所として届け出るよう求めていた。また、市消防局は2013年夏、ビルを立ち入り検査したが、防火体制に問題はなかった。

 どうやら各社の報道を総合するとこんな具合のようだ。前にも小火があって、近辺の住民の怖いねぇなんていう声を拾っている新聞もある。
 元は独身寮だったのだから、一階に食堂があって、ここでは朝食、夕食を提供していたというし、風呂も一階にあったらしい。
 この報道ですぐに思い出したのが、自分が社会人になった時に入寮していた独身寮のことだった。あの建物も正にこの建物そっくりで(多分高度成長期に建てられたものだろう)一階には住み込みで管理人夫婦がいて、2-3階に二人部屋がずらと並んでいた。まるで貨物船の下級船員の部屋の設計のまんまで作り付けのベッドと机とタンスが左右対称に作られていた。ベテランはそこを一人で住んでいたけれど、われわれ新参者は二人一部屋だった。プライベートなんてものはまったく存在しないし、私のような不精者がとてもマメな奴と同部屋になると全く苦痛だった。
 食堂ではほとんど会話らしいものもなく、ただテレビがついているだけで、朝はみんなバタバタと出て行ってしまうし、夕飯時はみんなバラバラだ。夕飯にレバーがでると、それがダメな福島出身の先輩が「あぁ、うどんの出前とるぞぉ!」といって有志を募ったことを思い出す。それ位しか食い物の選択肢がなかった。
 風呂は小さい銭湯みたいだったけれど、明かりが薄暗くて、いつもなんだか不気味だった。タイル張りの寒々しいトイレの横に洗濯機が二台おいてあるのだけれど、週末は放りっぱなしにしている奴がいて、停まっているのに中に洗濯物が入ったままになっていた。それを籠にとりだして自分の洗濯物を入れているところに持ち主がやってきて、バツ悪そうに持って行く。
 昨年ほぼ10年振りくらいにそのあたりに行ってみると、もっと新しかったはずの5階建ての社宅はとっくに取り壊されて売られてしまっているにもかかわらず、一番古かったはずのその独身寮はそのままの姿で建っていた。しかも、入り口にはまるでマンション!というイメージの名前がついていた。しばし佇んで昔を思い出していると、中から高齢の男性が昨日からもうずっとこのまんまの格好だったとおもわれるような風体でズルズルとサンダルを引きずりながら出てきた。そのあとを追いかけるように猫が出てくる。ハッとする。そうか、男ばかりの独身寮は本当に素っ気ないものだったけれど、こうしてペットなんかがいれば、かなり和むなぁと。で、思ったのは、一体あの頃のままのつくりで、あのお爺さんはどんな生活を送っているんだろう、ということだった。
 あの独身寮も、火事になった元独身寮とほぼ同じ使われ方をしているんじゃないだろうか。どんなに生活保護費のほとんどを持って行かれちゃったとしても、雨露が凌げるだけまだましだと考えることになるのだろうか。それにしても貧困ビジネスは油断も隙もないところを見つけてくる。なんだか腑に落ちない。