ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

New York Greek

そんな中にいわゆるNew York Greekといわれる海運業界でひとつの勢力を持っている船主たちがいた。そんな船主の一社からわたしたちの会社は何隻ものほぼまったく同じ船を受注していた。
なにしろ一回細かい図面をつくってしまえば、その後はその図面を使って造るわけだから、前段階にかかる時間が大幅に削減できるし、資機材だってなん隻分をもいっぺんに購買して、スケールメリットは出る。先にできた船から、その不具合カ所は判ってくるわけだから後の船にその検討成果を反映できるし、乗組員も他の船に転属になっても機械も仕組みも同じだから、わかりやすい。そんなわけで当時、こうしたシリーズ船の連続建造はとても流行った。中には自分の標準船型なんてものを開発して、これだったらこんなに安く造りまっせ、と世界中を売って歩く造船所もあった。逆にうちの船の操船室はこれを標準とするから、造船所はこの図面通りに造ってね、と造船所の先を行く船主まで現れてきた。製作者側の標準、使用者側の標準が競うように出てくるというのはその産業が正にホットだという証拠である。

ま、来る日も来る日も、同じような船を造り、見て、動かすのはそのうち飽きてくる事は確かにあるんだけれどね。

下手をすると三ヶ月、長くても半年に一回はそのギリシア人船主ご一行様がニューヨークからやってくる。そしてそのたびに進水式、あるいは命名式が行われる。そしてブラスバンドがその度ごとにギリシア国歌を演奏してきたのである。最初の頃は地元の自衛隊や消防本部吹奏楽隊に頼んでいたが、そのうちどうせなら造船所の従業員でブラスバンドを造ろうじゃないか、という話になって、私は打楽器を担当した。だから、練習でもギリシア国歌を何度も演奏してきた。

あの表彰台にいた競歩の優勝選手の満面にその喜びを表して、両手を上げて歓声に応えている姿と、この造船所の日々を、これからもギリシア国歌を聴くチャンスがあれば想い出すのだろう。