ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

ささの寄席

 夜は連れ合いとともに根岸の豆腐や、「笹の雪」の上の大広間で開かれる「ささの寄席」に出かける。今回で9回目ということだけれども、私たちは今年の正月の特別寄席に顔を出しただけ。今回は案内はがきをもらったので、知ったのだけれども、演者が九代目正蔵。整理券をいただいてみると54番と書いてある。もうすでにそんなに整理券を取りに来られている人がおられるわけ。そろそろ会場が開くというので、いってみるともうすでに何人もがあがろうと待っている。空模様がどうも暗くなってきていて危ないなぁと思っていた。中に入れたので奥にいって並んで待っていると、そこへ九代目が黒いティー・シャツで現れる。もう傘がぬれている。やっぱり今日も降ってきた。今晩わぁ!と声を掛けるとちゃんと、返事が返ってくる。大変だぁ、みんなに気を遣って。
 一緒に入ってきたおじさんは誰なんだろうなぁと思ったら、はじまってわかったんだけれども、これが1948年種子島生まれ、三平師の弟子で、ゴルフのハンディキャップがなんと4だという林家種平。未だに「耶蘇教」だの、「老人ホームに行ったら半分は耳が聞こえてないし、半分は笑う元気がないんで、まったくうけなかった」なんてことをいっているようじゃぁ、あんまり人前に出せない。こんなことも噺家としては大事。
 もう一人は独楽曲芸の三増紋之助。昔はそれでもテレビジョン番組でも出てきたりした例の昔っからある独楽を回す曲芸である。例によって扇子の上や、刀の刃の上をじわじわと動かしたりするという奴。想像したときは「あぁ、今でもこんなことをやって食おうとしている芸人がいるんだなぁ」と思ったんだけれども、出てきてみたら、これがいるだけで「よ!がんばんなよ!」と声を掛けたくなる雰囲気を持っているおにいちゃん。アダチ龍光先生以来綿々と繋がる「話をさせると方言丸出しなんだけれども、そのおとぼけ振りと芸のバランスが妙におかしい」という種類の芸人。これならどうにか暮らしていけそうだ。
 こぶチャン(もとい!)九代目正蔵は中入り前に「ぞろぞろ」を。そしてトリでは甚五郎噺のひとつで仙台が舞台。「え?あれはとらですかぁ!あちしは猫だと思いました」と落ちる「ねずみ」と二席をおつとめという大サービス。なんてったって地元の根岸ですから。家から歩いても700数十歩、母校はお隣根岸小学校。それにしても”良くなった、頑張っている”という話をいろいろ漏れ聞いていたけれども、おおむね、そりゃ祝儀相場てぇ奴だろうと納得していた。「そうはいってもやっぱり、こぶはこぶだろうぜぇ・・」と。ところがこれがちがうんだなぁ。驚きました。実に申し訳なかったよ、こぶチャン、いや、九代目。うまくなりました。志ん朝さんを尊敬しているというだけのことはある。ちょっと志ん朝さんを意識しすぎる所がないではないが、「ぞろぞろ」の荒物屋の娘なんざ良くできていると思わせる。まだまだこっちの頭の中に、あの素っ頓狂な声を出してわぁわぁいっているこぶがこびりついているけれど、ここまで来ているとは。親父を抜いたなぁ、こりゃきっと。先代の正蔵師はまだまだお許しにゃぁならねぇだろうけれど、立派に「できましたっ!」
 帰りに鶯谷の「天下一」のうどんを食う。