ほぼ足りてまだ欲 その先

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重篤

 河合隼雄文化庁長官が脳梗塞で倒れ、重篤な状態であると昨日から伝えられている。私が臨床心理に興味を持つきっかけを作ってくれたのは確かに河合隼雄である。それである大学で心理学を学ぶべく仕事を辞めた。尤も一年間在学するうちにそれまで心の中で迷っていたいくつかの関心領域の中のひとつに対する系統が深まって他の大学に転学した。そこから様々な感心がまた芽生えてきて今また自分が極めるべき領域がどこなのか、さっぱり見当がつかなくなっている。あっちにもこっちにも触手が伸びる。なんで、これまでの人生の中にあれだけあった時間をこうしたものに遣わなかったのかとちょっと残念である。どうして「ちょっと」なのかというと、そうしていたら今手に入れられているものは得られていなかった可能性が大変に高いのだからなのだ。人間(といったってたったひとつの個体ケースから断定するだけだけれど)はこれほどまでに欲深なのである。
 そこで河合隼雄である。私が仕事を辞めようとしたきっかけの奥には人の感情、人の思考をつまびらかにするということが何かにつけて必要だと思ったこともあるが、自分の周りにいる直接的関係者に対しては巧く自分を開示できないがゆえに人生の淵にとっぷりとはまっている人をどの様にして淵から引っ張る、あるいはそうした人が自ら浮かび上がることができるのだろうかという点にあった。そこにひょっとしたらヒントかも知れないと思ったのが、彼の「ユング心理学入門」培風館であり、「カウンセリング入門」創元社だった。そして日本に帰るたびにそうした分野の書籍を持ち帰っていた。
 臨床心理士という資格とそれを認定する組織の作られ方、あるいは運営のされ方に対して持ち始めた疑問、そしてなによりも文化庁長官になられて「心のノート」に携わるに至って、私は完全に河合隼雄から興味を失ってしまった。その間わずかに10年の出来事である。未だに私が臨床心理の勉強をしていると思っている昔の知人がおられて時々とまどうことがある。