ほぼ足りてまだ欲 その先

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ステラポラリス死す

今朝未明まで近所で鯨飲していたので知らなかったのだけれども、伊豆、三津浜(みとはま)に36年間係留されていた船のホテル、「スカンジナビア」が串本港沖で沈んだという。ストックホルムに曳航して第三の人生を送るはずだったということだけれども、曳航している間に浸水し、いったんは串本港に入ったけれど、沈没を免れないという判断で、沖に引きずり出し、そして沈んだという話である。良くその判断ができたものだと、この国の優秀なる判断力もまだまだ健在なんだと妙なところで感心した。
西武鉄道(正確にいえばその子会社の伊豆箱根鉄道)が北欧から買い取って原動機、推進器をはずして船舶としての規制から逃れ、消防法の規定を受けるためにその改造を日本の造船所で受けたのだけれども、その時にうちの死んだオヤジが工事にかかわったので、この船の話を聞いていた。元々はステラポラリスという名前の5千トンそこそこの小さい客船だったのだけれども、日本にはそもそもちゃんとした客船はほとんどないので、四周を海に囲まれている国にもかかわらず日本人には客船の種類がよく分からない。このステラポラリスは客船として就航していた時代には客ひとりに船員・サービス要員が二人という体制の客船だったという。そんなことお前なんで知っているんだ、という話になるのだけれども、かつて仕事で造船所に働いていた時にノルウェーからやってきた建造監督のひとりが元ステラポラリスの機関船員だったというのである。彼はステラポラリスが日本の観光会社に売られてしまったので、船を降り、仕事を変えたというのである。人生なんてどこで何がどうかかわってくるのか想像なんてできないのである。
 それにしてもどうして曳航前にせめてドライドックで外板だけでも改修しなかったのかという疑問は残る。上海に曳航する予定だったというのだから、今や世界最大の造船所を作るという話のある世界で最も熱い造船拠点での改修が経済的でもあるということなんだろうと想像する。
 私は一度ならず1980年代前半に上海のいくつかの造船所を尋ねた経験があるが、当時は8万屯前後のタンカーを建造しているところもあったけれど、総じて資材についても労働力のレベルも技術者のレベルもとてもではないが競争に勝てるものではなかったし、スケジュールを短縮するというようなことを考えるインセンティブすら存在しないから、国際レベルの競争入札に参加できるほどではなかった。なんせ、仕様に定められている板厚を超える板を使って設計をしてくるので、なんで?と聞くと、今この造船所にはこの板しか在庫がないというのだから。そこで鋼板をおいてあるのを見に行くともう何年も経っているであろうとんでもない厚板が野ざらしになって腐っていたりするのである。こんなもの造船所のどこで使うって云うんだろうというような代物を平気で送ってきていたのだろう。
当時は現場の労働者も私たちのような見学者もあたかもフジ蔓のような籐で編んだヘルメットを被っていた。こんなもんで意味があるのかと甚だ疑問だったけれど、多くの場合立ち上がったり、狭い船内を歩いて頭をぶつけるのを防ぐことが目的なんだろうから、その点では結構目的を達する機能を持つ。とても面白かったので、貰って帰りたかったけれど、言い出せなかった。
ステラポラリススカンジナビアの詳細についてはブログをお書きだった方がおられるので、ご覧いただくと良いかも知れない。スカンジナビア号を保存する会