ほぼ足りてまだ欲 その先

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第16回FNSドキュメンタリー大賞

 朝方に作業が一段落してお茶を淹れ、テレビをつけてみるとなにやらドキュメントのような画面。フジテレビである。あたかも日曜日の午前2時前後のNNNドキュメントのような雰囲気に思わず見入る。フジテレビの番組表を見ると昨年暮れに発表されたFNS系列各局から選出されたドキュメンタリー番組の大賞獲得番組、『「互恵」の糸〜山里の中国人研修生を追って〜』(制作:福井テレビ)であった。この種の番組がフジテレビ系列で一体いつ放映されていたのかは知らないのだけれど、この時間では気がついている人があまり良そうもない。この時間にだらしのない生活を送っている私であっても滅多にテレビなんて見ない。
 2007年の話であろう。どんどん過疎化が進む福井の田舎にある縫製工場で働いているのは中国から来た研修生の女性三人。つまり研修なんてものは存在していなくて確実に単純労働の担い手そのものである。彼女たちの月収は10万円。それでも中国の一般労働者の月収の数倍に上る。彼女たちの出身地はどんどん発展する上海から100km程離れた地方の村。物価はどんどん上昇し、この2年間は特に上がっているそうだ。その流れに乗った人たちは次から次に豪華な家を建てる。流れに乗れない、乗らない人たちはどんどん置いて行かれる。「毛沢東の時代は良かった・・」と語る三輪自転車タクシーの運転手たちは語る。この番組の裏で権太郎が語っていた「御慶」をも彷彿とさせる。まさに当たった人たちと当たらない、当てられない人たちの対比が見るものにとっても辛い。これでも社会主義国家だといっている中国は欺瞞を絵に描いたようなものだ。三輪自転車タクシーの横に立っていたおじさんが「どうせ放送なんてされないんだからどんどんいっちゃえ!」という言葉が象徴的だ。
 縫製工場を経営している社長夫妻は実は農業との兼業。だから収穫された米、野菜をプレハブ工場の隣に建っている築70年のもうボロボロな木造家屋で自炊生活をしている三人には社長から提供されている。彼女たちには故郷に残してきた家族がいて子どもがいる。中国では学歴か共産党の有力なコネがないと良い、つまり高収入を得ることのできる職を得ることはできない。学区ができているのだけれど、今では越境して進学率の高い学校に入らないとその高学歴を得ることは難しいという。田舎にいてはその可能性も絶対的に低い。その越境入学のためには日本円にして90万円という金が必要だというのである。番組製作側が中国のそんな学校に電話してその費用について聴くと「そんな話は知りません」といってがちゃりと電話が切れるという。
 彼女たちは暗くなるまでプレハブ工場の電灯をつけずに手元のランプだけで作業をする。なぜ?と訊ねるとこうして節約すれば社長も助かるし、その分私達にもいろいろな形で返ってくるんだと答える。社長が風邪で寝込むと彼女たちはお粥を作って持っていく。社長と彼女たち三人の間にはトータルな互恵関係が構築されている。
 福井の鋳物工場にも取材にいく。工場で働いている従業員の中の5人もが中国からの研修生。勿論典型的な3K労働の現場。日本人が来ても「こんな環境で働くなんて考えられない」と去っていくという。ここで生産している鋳物は今世界一の自動車メーカーが車を生産するための部品を造り出す機械の部品になるんだという。
 研修・実習制度は明らかに単純労働力を受け入れる日本の末端産業を支えるためにこうして確実に機能している。経済産業省は企業の圧力を受けて単純労働者の外国からの正式な受け入れに反対する。勿論そんなことになってしまえば外国人労働者の人件費が高騰するからである。そうなってしまっては産業がなくなる。そうなればそんな職種すらなくなってしまって日本国内では格安だけれども出身国に帰れば良い金となる金額すら稼ぐ場がなくなるのだぞという脅かしが跋扈する。そんなことになったならグローバル化の波の中で日本の生産現場は崩壊し、全体の7.4%にしかすぎない潤沢な利益を上げている大企業はこの地から去るだろうと脅かす。だから?だからどうするのだ。このままにしておいて、いや、これまで以上に研修・実習生どの滞在期間を3年に延ばしたものを今度は5年に延ばして乗り切ればいい、次から次に積み残してしまえばあとでどうにかなるだろうということにするのか。もう60年以上も私達は何もかも明確にすることなく、あれもこれも積み残していじいじごろごろ暮らしてきた。これが私達の得意技だ。
 この番組が現実的なニーズがこれこの通り存在していることをつまびらかにした。しかし残念ながら、で、どうするという方向性を見いだすことができない。私達がまっとうな道を歩き始めたらどんなことが起きるのか、それではなぜいけないのか。答えはどこにあるのだろうかとウロウロする。君はどう思う?竹中君。