- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/02/03
- メディア: 文庫
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3月20日の当日は私は東京の丸の内、それも事件現場からは歩いたって多分30分くらいしかかからない、とあるビルの中に出勤していたはずなのだけれど、驚くほど強い印象というものがない。テレビでヘリコプターからの画面が路上に拡げられた被害者の人たちの様子が見えていたくらいでしかない。現実感が全くなかったといって良いだろう。
わたしの感覚はなんだか訳のわからないものを持ちだして都会の密集地にばらまいたら、とんでもないことが起きるんだぞというものではあったから、今までのようにぼぉ〜っと呑気にその辺を歩いている場合じゃないんだなぁという印象は持ったけれど、大して危機感を持たなかったのではないかという気がする。それよりも数ヶ月後に近づいていた新天地への異動の方が気になっていたのだろう。
それよりもその後の異動先で、孤立感にさいなまれて送る日々が、個人としての危機管理に大きな影響を与えたといっても良いかもしれない。こんなことは具体的に書かなければそれを読む人には発想ができないだろうけれど、それまで暮らしてきた地域と大きく変わる状況下に暮らし始めるとわかることなのかもしれない。あの時期は職場でも、暮らしている地域でも何もかもが今と較べても、そしてそれまで暮らしてきた環境から較べても大きく違っていた。自分の力の限界を突きつけられる日々だったような気がする。自分の立ち位置を冷静に把握することができなかったといっても良いだろう。
いろいろなことをいう人がいるようだけれど、私はまさか村上春樹が(もちろん一人ではなくて多くのスタッフが動いた結果だろうけれど)こんな仕事をしていたとは思わなかったから驚いた。意外だったというよりも驚いたのだ。
そしてあの現場のこと、サリンというものがどんな被害を引き起こすのかということを今初めて知ってちょっとたじろいでいる。