ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

「鹿芝居」

 ちょっと家を出るのが遅れたのだろうか、弁当を買って最高裁判所の入口に何人かの人が並んでいるのを初めて見て、今日は何か公判があるんだろうかといぶかしく思いながら国立演芸場に到着するとやっぱり前を歩いていた一澤帆布のトートバッグをぶら下げたおじさんも、地下鉄の中で見た着物のおねいさんも「満員御礼」の札が掛かった入口に入っていった。昨年は2月16日に行ったのだけれど、今年は一日早く15日の切符を入手。なんと・・一番前を手に入れていたのだった。国立演芸場で一番前に座ったのは多分これが初めてだ。前にいくらでも荷物を置けるのが「贅沢!」だ。(小さいしあわせ・・)。隣のおじさん、人前で靴を脱ぐのは止めて下さい!と思ったら連れあいが脱いだ・・。なんだよ、と云ったら「当てつけだ」というのだけれど、そんなのそのおじさんは思ってねぇよ。「ほうら隣の奴だって脱いだから、良いんだよな」と云うぞ。
 全部終わった後で出演者全員が手拭いなんかを投げた。連れあいが「大入り」の手拭いを貰う。

  • 前座:歌五
  • 馬治:強情灸
  • 金原亭世之介:世之介の「フラ」は本当に良いんだよねぇ。ちゃんとした噺を聞きに行かなきゃなぁと思ってからもう何年経ったんだろうか。今日の形態模写、例によって:志ん生、先代正蔵立川談志
  • 古今亭菊春:時そば この噺はなにしろ中学生の頃からそらんじていた噺だから、「あぁ、やるのかぁ」という雰囲気だったのだけれど、菊春の間がこの噺の間にぴったんこなんだろうなぁ、久しぶりに面白かった。昨年はもっと後ろで聴いていたからか、彼の噺は時々きこえなくなり、隔靴掻痒たる感があったのだ。
  • 蝶花楼馬楽:味噌蔵(の前半をかなり端折り、「あ、提灯のろうそくを抜いてくるのを忘れました」というオチ)
  • 林家正雀:師匠の先代正蔵(彦六)のエピソード。:稲荷町の六軒長屋にはもう一人噺家が住んでいた。これが数年前死んだ十代目の前、つまり九代目の文治。数年彦六よりも上。永寿病院(稲荷町の角にあったけれど、今はマンションになっていて、今の永寿病院は元の西町小学校の跡地に建っている)に入院していた文治を彦六が見舞う。文治が「足が見たい』というので彦六が丁度塩梅良く入ってきた看護婦(当時はこう呼んだ)さんにお願いした。それでも文治が「足が見たい」というのでよく聞いてみたらそれは彦六がベッドの上に座っていたので、文治は「足が痛い!」と云っていたんだという、本当にあった話だとのことである。そのあと、見事に踊って見せて下さった。さすが。
  • 金原亭馬生:「子別れ」の前半。世話になった隠居の弔い。酔っぱらって「今日の弔い、ばんざぁ〜い!」などと気勢を上げた大工の熊が棟梁から前借りした金を懐に紙くず屋の長さんを引きずり込んで仲へ繰り込んじゃう。弁松から誂えた強飯とがんもどきの包みをなんと懐に三つ、両袖に五つ、背中に七つ背負い込んで「これが七・五・三、てぇんだ・・」と威勢が良い。けれども、お歯黒どぶに落ちそうになって長さんに背中をどやしつけられて、がんもどきの煮汁が背中を伝ってふんどしに染みる。
  • 恒例の獅子舞はもちろん、世之介と菊春。場内を彼らがぐるっと回ってご祝儀を戴きながら帰ってくると、菊春は一度上手の袖に引っ込んだ。何をしているのかと思ったら、ペットボトルから水分摂取である。暑そう。

「鹿芝居 子別れ 下」

 熊が仲に三日居続けて、神田堅大工町の長屋に朝帰りのところから芝居になる。馬生は自身の出身の「木挽町」の半纏で客席の後ろから登場。なんと襟には「佐竹」と染め抜いてあってこれは十一代目馬生の本名。つまり、自分ちの町内半纏である。(ネタばれあり、これから「鹿芝居」をご覧になる方はご注意、ご注意!)
配役は

  • 大工・熊五郎金原亭馬生
  • 女房・お光:林家正雀
  • 倅・亀吉:金原亭馬吉
  • 女中・お花:古今亭菊春
  • 番頭・伊之助:金原亭 世之介
  • 紙屑屋・長吉:金原亭馬治 
  • かっぽれ屋・彦八:林家彦丸
  • 大家・清兵衛:蝶花楼馬楽

 菊春は熊が倅の亀を連れていく鰻屋の女中、ということになっている。最後の山場前に世之介の番頭とふたりで幕前でやりとりする。世之介が「千の風になって」をカラオケに合わせて唄う。(実は巧いが)鐘がひとつ「カァ〜ン」と鳴る。菊春がそこで転ける。すると彼(この場合は彼女か?)の雪駄がポ〜ンと飛ぶ。片方が私の足下に。取って渡したら「履かせて!」と。履かせてあげると「もうひとつも!」てんで結局両方履かせてあげることに。団十郎の物まねに菊春が挑戦。「怒られるよ」とひと言声を私があげると大笑い。
 正雀さんのお光さんはもうそりゃいつものできだからとっても良いし、世之介のフラはいつもの本調子。それにも増して、今日の出色のできは馬吉の亀ちゃんだ。彼は上手いよ、本当に。最後の手締めの前に正雀お得意の歌右衛門の物まね。