ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

散歩

 日比谷図書文化館というものが日比谷公園の中にある。聞き慣れない名前だけれど、そりゃ一体公園のどこにあるの?とググったらなんということはなく、都が元不良小説家が知事になってから千代田区に押しつけたかつての都立日比谷図書館のことだった。あそこは受験シーズン間近になると詰め込み勉強をする学生たちが集まって満席になる、というので新聞が取材に来るという季節の話題を提供する図書館で有名だった、なんてことはもうとっくに誰も覚えちゃいないな。千代田区には区役所の上に図書館があり、神田や昌平、四番町なんてところにも拠点はあるけれど、ここの図書館はそりゃ当たり前だけれど、群を抜いて規模のでかい区立図書館だ。
 都立の図書館は今では広尾に中央図書館があって、あとは南武線の西国立の駅から歩いて10分以上は掛かろうという不便なところに多摩図書館がある。
 そうそう、それで珍しくこんな場所にやってきたのは「没後五十周年記念企画 日比谷図書文化館特別展 報道写真とデザインの父 名取洋之助 日本工房と名取学校」という長いタイトルの特別展示が明日で終わるからだ。
 名取か木村伊兵衛かというくらいのものだろうから、名前は昔から知っていたし、どこかで写真にも出逢っていたんだと思っていたのだけれど、ぴんとこないからとこの際見に行った。金持ちの坊ちゃんが慶応をやり損なってドイツでぶらぶらしているうちに才能を開いたというある種ひとつの典型ともいわれるようなストーリーだ。日本にも写真ジャーナリズムを育てるべきだとして1933年に「日本工房」なるものを立ち上げる。良くあるように意見対立、解散、再構成という流れを辿った「日本工房」には亀倉雄策岡部冬彦なんてところも加わっていたらしい。とにかく、辛らつな批評で若い人たちを育てたようで、展示の中にはそんな言葉が散らばっている。
 終戦後の1948年の彼の写真に上野動物園があって、入場料の代わりに物納でも入ることができた看板が面白い。青草一貫目なんて書いてある。座っているらくだの上に嬉しそうに乗っかっている女の子と、周りでそれをニコニコ囲んでいる子どもやお母さんの様子が実に当時の雰囲気そのもので面白い。資料を展示してあるのは面白いのだけれど、そんな資料をめくってみてみたいものだ。現物は傷んでしまうから公開はできないにしても、そういう資料を電子化して公開するわけには行かないものだろうか。
 この図書文化館はミュージアム・ショップが裏にある。普通ショップというものは出入り口にある。探していって見るとカフェテリアも兼ねている。しかし、名取絡みの資料は本が一冊あるだけだった。あまりにも特別展としては悲しい状態だったけれど、それにはきっと二ヶ月にわたる展示期間の終わりとなってもう在庫が払底しているんだ、という言い訳がされるのだろう。
 東京電力の横を通って銀座へ出る。今でも東電の横には警察のバスが一台止まっていて、装備を付けた制服警官が数人歩き回って警備をしている。彼ら警官は東京電力を一体誰から守っているのだろうか。それとも東電の責任者が撤退を叫ばないように見張っているということなのだろうか。(まさか、そんなわきゃないな)。社員の出入りには正門をがらがらと引いてごく狭いスペースにしてIDをチェックしている。利用者へボーナス分を押しつけて喜々としている社員の流れを思わず見つめる。
 どこで昼飯にしようかと逡巡していたのだけれど、どうも三州屋一丁目店まで腹が持ちそうもなく(そんなのはウソに決まっている)、松坂屋の地下に入ってみる。スギモトは相変わらず並んでいる上に一番後ろについている爺がちゃんと椅子に座っていなくて、その後ろについたら自分が喧嘩を売りそうでいやだから、やめて乾山のカウンターの奥に座った。一番手前の二人の席にはどこかで未だに仕事をしている様子の70歳くらいの婦人が横の席に鞄を乗っけてなんとカツカレーを喰らっている。こういうものをどんどん食べるような人でないとこの歳でがんばれないんだろうなぁと感心する。こっちはいつものひれカツ丼。横に入ってきた、これまた60代後半とおぼしき婦人はなんとミックスフライ定食で思わず「あっ」と声を上げそうになる。元気な人は元気なのだ。
 教文館週刊金曜日を入手。「困ってるひと」の文庫本は見つかったけれど、もう一冊の文庫本と雑誌が見つからないので丸善に向かう。もう一冊の文庫本というのは新潮文庫の「警察庁長官を撃った男」という本なのだけれど、検索してみたら在庫なし。当たり前でまだ発売されていないのだった。
 もう一冊の雑誌は日経BPの「仕事に役立つ文具術」というものだったけれど、広く浅くて全然面白くなかった。こんな中身を企画する意図は一体どこだろうか。
 高島屋の二階にあるボルサリーノに寄ってみたが、やっぱり布で作った夏用のハットというものは気の利いたものがない。「あとはこれですねぇ」といってみせられたのはまるでピエロが被りそうなとんでもないハットだった。時として喜々としてそんなハットを被っている爺を見ることがあるけれど、日本人の爺には概ね似合わないのだ。

困ってるひと

困ってるひと

仕事がはかどる 文具術 (日経BPムック スキルアップシリーズ)

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警察庁長官を撃った男 (新潮文庫)

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