珍しく新入社員の当時の上司から電話をいただいた。とうに80歳を超えておられる。この方に教えられたことはとても多い。しかも、人と接するに駆け引きをせず、正直に提示されることがこちらに伝わってくるのでこの方の前ではこちらも駆け引きをすることが全くない。ヘミングウェイの言葉に「信頼を得るには相手を信頼することだ」的なものがあって、この言葉を聞いた時にまず思い浮かべたのはこの方だった。
「こんなメールが来たんだが、名前がないんだ。君じゃないのか?」というお電話だったけれど、どうもアドレスに私の名前の一部が入っていたのでそう思われたらしい。ドメインが変だったので、釣りメールかもしれないですよとお伝えした。
すると、仕事で東南アジアの国とやりとりしなくちゃならんのだけれど、やる気はないかとおっしゃる。この方のためだったらお役に立ちたいのだけれど、結構苦手な地域だったので、ご遠慮申し上げたのだけれど、その歳になっても仕事をやろうとする気力には舌を巻かざるをえない。それも外国とのやりとりだ。
短い会社員生活の中で見てきた様々な魑魅魍魎とした人々の中で、これほどなにも腹に抱えずに信頼できる人に出会えたことは希有に等しい。もうひとりだけ同じような上司に出会っていて、この方も腹の据わった、そして変化球ではなくて何事にも真正面から捕らえるという点で本当に勉強になった。こういう人にこの短い人生の中で二人も出会えたのは幸せといって良いだろう。