ほぼ足りてまだ欲 その先

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森達也 麻原(松本)

 先日の遠藤誠一被告(51)の死刑が確定して、あのオウム教幹部達が不特定多数に対してサリン殺人を謀った事件については13人の死刑が確定した。その中で麻原彰晃(本名・松本智津夫)の死刑確定に関して作家・森達也が異論を提示している。彼の論理は麻原は明らかに精神に異常を来しているにもかかわらず、その点を簡単にすっ飛ばして、世論が彼を死刑にしなくては収まらないから、その異常について無視している風潮は間違っているという。
 これを聞いた時に私は大いに違和感を感じていたのだけれど、麻原は意図的に異常を来している風を装っているのだろうと思っていた。なぜならばそういうニュアンスで最初から報じられていたからである。しかし、そこまで考えて思わずギクッとした。というのは、原発についても大いにこれまで私はマスコミの報じるがままに判断してきたことを悔いていたのを思いだしたからである。なるほど、確かに私はこの眼で麻原の法廷での態度を見てきたわけではないし、時々「法廷で異様な声を挙げ」と書かれているのを見たことがあるだけだ。だから、彼の異常性については心の片隅にもおいてはいない。というよりはあんな空中に浮遊するだとか、機械をつけたら麻原の考えが弟子達にそのまま繋がる(こんな理論だったっけ?)なんてことをしてきた奴だから、「あ、そうなの、はいはい」という程度でこいつは絶対にいい加減だからね、こっちは騙されないぞと思っている。
 裁判所が彼の精神的以上を斟酌するかしないかは裁判官の考えにまったく左右されているというのは実は驚くべきことなのかも知れない。麻原が謀っているのか、本当に精神に異常を来してしまっているのか、それについて裁判所は真剣な検討をしなくてはならないという点では森達也のいうことは聞くべきではないかと思う。
 裁判といえば、元厚生事務次官であった二人の家庭を襲い、3人を殺し、1人に怪我を負わせた小泉毅被告(49)に東京高裁は26日、被告の控訴を棄却し、死刑を言い渡したと報じられた。私はこの事件が発覚し、容疑者が逮捕された時に、被害者が二人とも厚生事務次官だったと聞いて、生活保護、あるいは社会保障制度がらみで役所に対して何らかの恨みを持つものが遂に実力行使に出てしまったのかと戦慄を覚えた。
 ところがこの犯人は犯行を認めるのだけれど、その動機を「保健所に殺された愛犬のあだ討ち」だと主張し続けていた。そのうちに本当のことがわかるのだろうと思っていたのだけれど、いつまで経ってもそれしか出てこない。一審で死刑判決を受け、この犯人は控訴した。
 しかし、26日の判決で東京高裁の八木正一裁判長は「動物の殺処分に関心は持っていたが、年金問題などの国家行政への怒りや不満から殺意を形成した。愛犬のあだ討ちなどの一見純粋な動機は、その口実として脚色された疑いが強い」と指摘して「動機は独善的で、正当化の余地はない。被害者を冒とくし、反省、更生の意欲が全くない」と断罪して、控訴を棄却した。犯人はその場で「上告します!」と叫んだそうだ。
 確かに飼い犬に対する処分の恨みというのはあるだろう、だけれど、それは本当の殺意ではなくて、「国に対する不満故に殺意を持ったのは独善的だ」と断じたということを意味している。
 私が疑問に思うのはこの動機である。なにゆえ裁判長は彼の本当の殺意の動機がこれだと決めることができたのだろうかという点である。なにしろこの犯人は事件からもう丸2年収監されているわけだから、その間に様々な取り調べが行われたわけだから、普通だったら充分な取り調べの後に裁判長がそう断じたんだろうと「想像」することは可能だ。マスコミにはこの辺を報じて欲しい。