ほぼ足りてまだ欲 その先

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万年筆

 私がこれまでに入手した万年筆の中でもっとも書きやすかったのは、父親が大学生時代に使っていたという万年筆で、高校生時代に使われていなかったものを譲り受けたものだった。何しろ昭和初期のもので、30年経っていたわけだから、レバーでスポイトを絞ってインクを吸引するものだった。多少インクが漏るのが難点だったのだけれど、とにかくとてもスムーズに書けた。

 それに、次ぐのは神保町の「金ペン堂」で入手したPelicanだった。何しろあそこはひとつひとつペン先チェックをしてくれたし、この万年筆にはこのインクを使うべきだとまで明らかにしていた。COVID-19になって以来予約しないと店も開けなくなったのは残念だが、店に入ると、どうしても何か買いたくなる気になってしまうのが危険といえば危険だった。

 今、文具屋で万年筆についての品揃えでどこにも引けを取らないのは、多分銀座の伊東屋、あるいは日本橋丸善だといって良いだろうと思う。他にもあるのだろうけれど、行動範囲の狭い私にはこれくらいしか思いつかない。
 しかし、残念なことに両方とも、販売に当たってペン先の調整まではやらない。本来的には、確認行為くらいはするべきだと思うけれど、書き味くらいは試し書きでちょっと垣間見ることができるくらいか。だから、それぞれに個体差があってもこういうものだ、と思い込むしかない。たまたま自分に合う書き味を持ってやってきたか、そうでないかは素人の自分の判断だ。
 ましてや蒔絵の何十万もするような万年筆を扱う店が、2千円、3千円の鉄ペン先の万年筆に気を配るわけがない。だからそうしたお手軽な万年筆の扱いは、かなり粗雑といって良い。

 実はこの辺の、外国ではいわゆる子どもの練習用といわれるような鉄ペン万年筆には当たり外れがある。それほど品質にこだわっていられないというところかも知れないが、特にドイツ製の鉄ペン万年筆は、当たると嘘のように書き味が自分好みのものに遭遇する。それが忘れられなくてまた買ったりする。
 ところが残念なことに日本の万年筆メーカーのこの種のものには、残念なことにばらつきがない。それは本当は優秀なことなんだろうけれど、ばらつきなく、つまらない書き味なのである。

 先日丸善で、パイロットの新しい格安万年筆が並んでいるのを見つけた。さすが万年筆と名が付けば何でも置いてある。ところが試し書き用に細字のものしかなかった。カウンターにいって中字用で試すことができるものはないのかとお伺いすると、そのベテラン女性店員は、ため口で「パイロットの他の(格安万年筆)と同じ!」といった。ここの店員がため口で応対するのは見たことがないから、ちょっと驚いた。こっちのひがみかも知れないけれど、多分彼女の気持ちの中には(いい歳からげて格安万年筆かい・・)という気持ちがあって、それが出てしまったのかも知れない。一気に興ざめして「あぁ、そうですか、ありがとう」と踵を返した。

 金ペン堂が昔のように復活しないかなぁ。