ほぼ足りてまだ欲 その先

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高齢化社会

 銀座5丁目のすずらん通りに「タカオカ」という靴屋があった。いや、建物はまだそのままある。ついこの前まではシャッターは降りていなかった。すっからかんのショーウィンドウの中に数足の靴がおいてあるだけでおじさんがひとりでいつも店の奥に座っていた。おじさんは店の前のプランターに水をやったりしていて、ちゃんと店を開けていた。しかし、とうとうシャッターは降りたままとなっている。
 あのおじさんにとっては銀座の店を開けることが人生そのものだったに違いない。多分一代で開いた店だったのかも知れない。なにしろ有名な店だったから何人もの人がこの店のことを書いている。あの店のシャッターを開けることがなくなっておじさんの日常は大きく変わったことだろう。あれだけが支えだったかも知れない。
 うちの近所にはあの店に似たようなお店が何軒かある。ひとつは洋品屋だった、というか洋品屋である。前は毎日ひしゃげたシャッターをおじさんが開け、猫が出入りし、音の悪いラジオががぁがぁ鳴っていた。ある時期おばさんが店番をするようになった。私達はきっとあのおじさんはなくなっちゃったんじゃないか、そして代わりにおばさんが開けるようになったんだろうかねぇと噂した。するとある日突然おじさんが復活していた。なんだか店の中はぐしゃぐしゃだったけれど、時として、誰か客とシャツを取り出して話していることがあったから、売れることがあったのだろう。そしてここのところ、とうとうシャッターが開かなくなった。とうとうその時期が来たかと思っていたら先週通りかかったらまたおじさんの顔が見えた。
 プールに行く路に古い造りで、木の窓枠のガラス窓で中が比較的よく見える文房具屋だったと覚しき店がある。扉の横の出窓のようになったところには、ばらばらに積み上がった自由ノートが重なっている。しかし、用紙は既に日に焼けてセピア色になりかかっている。あぁ、小学生がよく使ったノートだけれど、随分時間が経っちゃって、どこかに寄付しちゃえばいいのに、と思っていた。ところが先週、プールに行く路にやっぱり覗いたら、なんとおじさんがひとりで、鳥の羽のハタキを使ってそんなノートの上をぱたぱたとはたいているところだった。ということは、この店はまだ現役の店でおじさんは商売をしているということなんだとわかった。
 多分タカオカも洋品屋も文房具屋も人から場所を借りて商売をやっているわけではないから経費がそれほどかからないということなのだろう。家賃まで払っていたのではとてもこんなことをやっていくわけにはいかない。
 これから先の日本はどんどんこうして自営業の店舗が減っていくということになるのだろう。