ほぼ足りてまだ欲 その先

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水泳

 だから高校の時には、水泳は大得意だったので、プールの授業は好きだった。うちの学校には25mのプールがあった。横幅は15mというのが学校プールの基本。ところがうちの学校は当時(今はどうか知らない)各学年ごとに学年色というのが決まっていて(多分元高等女学校だったからだろう)、私たちの学年はこれがなぜか「白」だった。想像がつくだろうけれど、私たちの水泳パンツが白だった。格好悪いよねぇ、この選択。それでなくても、貧弱な私はことさら弱々しく映る。

 どんな泳ぎ方でももってこいだったのだけれど、唯一、バタフライだけはダメだった。なぜか?筋力がないからだ。あんないっぺんに両手を放り出して水をかくだなんて、エネルギーの無駄使いではないのか。しかも、ドルフィンキックときたものだ。できない。それでも、各泳法の試験というのがあった。最低25mを泳げ、というものだった。バタフライの時に、良いことを聞いた。足はカエル足でも良い、というのだ。早くいってよぉ。とはいえ、足はあれで、手はこれってやったことがないから身体が反応しない。意識してやらないとできない。それでも、そのなんちゃってバタフライで、通過した。

 もっぱら文系の私は高校はいってすぐに男がひとりもいないESSとインテリ不良の巣だった放送研究会に入っていた。三年になってからは落語研究会専念した。水泳部にはとても入る気にならなかった。中学の時に、同級生で区の記録を持っている奴がいたので、あんまり面白くなかったからだ。
 ところが水泳部にはひとり豪傑がいた。全く泳げないから、泳げるようになりたいといって入った。彼のその考えは基本的には学校の部活の本来の姿だ。できないんだから、出来るようになりたいと。彼は本来的に運動神経が開発されていなかったので、柔道の授業の時に、前任校で半身不随になってしまった生徒をひとり出してしまった柔道教師は彼が受け身をやろうとしているところを見て、慌ててそれを止めた。それ以来、授業開始前に全員が次々にする受け身を彼は免除された。
 彼をすぐに泳げるようにしてやろうとした当時の水泳部の上級生たちは、当時当然のように思われていた「根性論」水泳上達法を彼に課した。つまり長い竿を彼の前に出して、いつでもそれに掴まれるようにし、そして彼をプールの中に落とす。すると彼は竿に手を出す。しかし、竿は前に逃げる、それを必死に彼は掴もうとする。それで15mを横切った。ほとんど溺れ状態になってプールから上がってきた彼は竿を持った上級生に「殺す!」といったそうだ。今だったら教師は処分されるだろう。それで彼が泳げるようになったのかどうかは寡聞にして知らない。