ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

ある軍属の物語―草津の墓碑銘

ある軍属の物語―草津の墓碑銘

 「日本の古本屋」というサイトで検索をかけたら、ブックオフの通販サイトで見つかった。200円だったが、送料が300円ほどかかった。なんと思想の科学社の出版で、だから、カバーの袖に鶴見俊輔のことばがある。元はといえば1967年に新読書社から出版されたようだけれど、1989年に加筆・訂正して思想の科学社から再出版されたものだという。私が入手したものは2008年に二刷されたものだが、ここまで20年近くを要している。
 著者は草津で汚穢屋さんをやっていた人で、徴用されて南方に送られ、ハンセン氏病に感染して帰国。徴用の身体検査に呼ばれた時に、大家さんが「草津の硫黄鉱山だろうと元山の鉄鉱山だろうと既に徴用されていることにしてしまえば良いのに」と言われたという。ここに出てくる元山の鉄鉱山というのが、かつて私がよく遊びに行った山のことだ。昭和40年代に閉山した元露天掘りの山だったそうだ。
 一緒に徴用身体検査に高崎へ呼び出された連中の中に二人、草津の旅館の旦那がいたが、彼等と会ったのはそれっきりで、徴用出発に際しては自分ともう一人、耳の遠い男がいたっきりだったという。その男も耳が遠いのに、役には立たないといって返されたから、一緒に身体検査にいった中で徴用隊に配属されたのは自分ひとりだったというのだ。昭和18年の戦争さなか、それでもなんだかんだで徴用も逃げた例があったというわけだ。逆に村役場で兵事係をやっていたのに、上司とぶつかって、徴用に出されてしまった職員だっていたという。ずるい連中はどんな時でもずるい。今となにも変わらない。