一時間 - ほぼ足りてまだ欲　その先

　全国に暮らしている中国から帰国してきた残留孤児の人たちが国家賠償請求訴訟を起こしている。それぞれの県レベルで戦っている。『全国14都道府県で約2000人の中国残留日本人孤児が、日本政府に対して「孤児政策」の誤りを認め、老後を人間らしく生きるための補償制度の確立を求めて起こした訴訟は、7月6日の大阪地裁判決をむかえ』（日本民主法律家協会）ている。
　今日は「6.20行動」ということで、日本教育会館で決起集会が開かれることになっていた。その前にデモをすると聞いたので、集合場所となっている日比谷公園霞門に時間ちょうどに行ってみるともう既に様々なのぼりを立てた多くの人たちが集結している。
　ほとんどの人たちは中国語で会話をしているから、私には全く理解ができない。もちろん日本に帰国してきた一世の人たちは50代以降の年代で帰国してきたのだから中国語の方が得意に決まっているし、その方が自然である。この場ではあたかも同窓会のごとくあちらこちらで、懐かしい人を見つけては握手をしたり手を振って声を掛け合っている。冗談を言っては笑っている。和やかなムードだ。若い人たちは二世か、三世か、あるいは中国人の支援者か。多くの人たちが日の丸のついた必勝というはちまきを締めているのがなんだかぴんと来ないような気がしてデモ慣れしていないなぁとわかる。
　警察の車がやってきて警備の警官もそろって、ようやく霞門を出たのは午後3時ちょうどであった。もうほとんどの人が60代も後半以上の年齢だから、声も大きくない。歩く姿も猫背で格好良くない。足取りだって引きずるようである。かなり最後尾の方にくっついて歩く。沿道のサラリーマンたちがとてもお金持ちに見えるのが不思議だ。とても良い生活をしている人たちのように思える。そして彼らは足早である。霞ヶ関に出て左折。虎ノ門を左折。まっすぐ新橋のガードをくぐる。また左折。銀座通りにはいる。お！いいぞ！でもすぐに左に曲がる。昔の大阪ビルの横を通って日比谷公会堂の横から日比谷公園に戻る。ちょうど一時間の行程である。制服の警察官約10名くらいが交通整理をかねて警備についている。「もっと詰めてぇ」「早く渡ってぇ」「はい、待っていてくださいよ」と。気をつけてみているとコースの何カ所かで耳にイヤフォーンをつっこんでいる背広姿の人を見る。多分私服警官なんだろうなぁと思う。（みんな年取ってるからぁ・・）という会話が聞こえてきた。
　最初は若い日本語と中国語の両方を話せる女性がシュプレヒコールの音頭を取っていたけれど、途中から一世の男性に変わる。後半半分くらいは日本人の大学生が頑張る。「大阪訴訟に勝利するぞぉ〜！」「政府は残留孤児に謝罪しろぉ〜！」「戦時死亡宣告を取り消せぇ〜！」「孤児の老後を保障しろぉ〜！」「孤児二世、三世にも日本語を教えろぉ〜！」「戦争はんたぁ〜い！」こうしたシュプレヒコールを聞いただけで中国から大人になってようやく帰ってきた孤児たちの状況がわかる。
　なにしろ約七割が生活保護で暮らしているという状況を考えるとその苦境がわかる。帰ってきて良かったんだろうか、中国にいた方が良かったんじゃないだろうか、という悩みをもってこの人たちが暮らしていることが、今、私たちがなにを考えるべきなのかを突きつける。靖国に奉られている「国に奉仕した人々」にお参りすることがなぜいけないのか、と啖呵を切ることができるのならば、この人たちに「おきざりにして申し訳なかった」とお詫びをすることはすぐにでもできるはずではないのか。私の国は甘言を弄することには長けているんだけれど、根本的人権擁護には実に低レベルであることが悲しく、それが恥ずかしい。
　いずれにしても7月6日（水）には大阪地裁で一審判決が出る。