ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

ニチイ学館のTV-CF

 その分野をご存じない方から見たらちょっと変わった名前の企業であるが、業界の方には充分にその存在は知られているのがこの「ニチイ学館」である。この会社がテレビのCFを流している。

鈴木京香演ずる野党の党首と役者はわからないが、与党の党首との党首会談という雰囲気の場面。
与党党首「え〜、介護と医療については今後とも議論を尽くす所存であります」
野党党首(鈴木京香)「今、何ができるかが大切です」 (廻りは“またかよぉ“という顔をする。)
与党党首「重々わかっております」
野党党首(鈴木京香)「わかっているだけではなにもかわりません」(場内騒然となる。)
野党党首(鈴木京香)「学んで生かす」
(ナレーション)介護と医療の大手、ニチイの教育講座なら実践的なノウハウが学べ、資格も取れます。就職もサポート。
野党党首(鈴木京香)「一歩踏み出しましょう」
(ナレーション)まずは資料請求フリーダイヤル、ごう、ごう、ごう、にちいに。555-212

 非常にメッセージ性のあるコマーシャルでびっくりするんだけれど、ニチイ学館はここまでコマーシャルを放映することのできるほど儲かっているのか、と思ってしまった。介護系の企業で云えば例のコムスンを抱えるグッドウィルは今年から西武球場グッドウィル・スタジアムとし、2軍のチーム名も「グッドウィル」とする命名権を買った。

 西武球団は西武ドームネーミングライツ命名権)を総合人材・介護サービス会社のグッドウィル・グループ(本社・東京都港区)に売却し、「グッドウィルドーム」にし、と、2軍チーム名も「グッドウィル」とすると発表した。契約期間は5年で総額は約25億円(推定)。Asahi.com 2006年12月02日17時07分

つまり、年間5億円をここに使うということである。しかし、グッドウィルコムスンは買い取ったクリスタル系の訪問介護の現場では、それまで制度として持っていた訪問介護員(ホーム・ヘルパー)への交通費支給を廃止し、結果的にヘルパーの多くが職から離れているという現実がある一方、こんな記事がある。

介護職の確保に四苦八苦 景気回復などで若者減少 2006年3月5日(月)信濃毎日新聞
 高齢者の介護職を目指す人が減り、特別養護老人ホーム(特養)やデイサービスなどの事業者が職員確保に四苦八苦している。少子化に加え、景気回復で一般企業の求人が増え、若者が「きつい割に賃金が安い」とのイメージがある介護職場を避けていることが背景にある。近い将来、「団塊の世代」の介護で担い手が大量に必要になると予測され、県内の事業者からは「職員不足で制度が破たんしかねない」と危ぶむ声が出ている。
 諏訪地方の特養は4月に介護職2人を新規採用する予定が、まだ確保できずにいる。施設長(55)は「就職説明会のたびに何人かの学生と面談したが、その後志望してこない」と打ち明けた。
 法定の職員配置基準は満たしていても、夜勤などで実情は人手不足。現場から「人を増やして」と声が上がる。「職員の負担感は大きくなっている。利用者とコミュニケーションする時間も限られ、サービスの質の低下につながりかねない」。施設長は懸念する。
 入浴担当の職員が足りず悩んでいた松本市内の特養は2月から、フィリピン出身の女性派遣社員を雇った。「日本語の会話や書類の読み書きに困難がある」(施設長)のは承知の上だ。「せっかく養成した若手の男性職員が民間企業に転職する例が近年目立つ」(北信地方の施設)との声も。
 長野労働局によると、県内の介護福祉士を含む「社会福祉専門の職業」の有効求人倍率は、2004度の0.83が2005年度は1.12に。ホームヘルパーを含む「家庭生活支援サービス」でも2004年度の0.91から1.05に上がり、求人に対し求職者が不足する傾向になっている。
 福祉関係の求職と求人を仲介する県社会福祉協議会の県福祉人材研修センター(長野市)によると、年数回の「福祉の職場説明会」に参加する1回当たりの事業者は年々増加。だが、就職を考える参加者は本年度、前年度比で約2割減った。
 介護職を目指す若者の減少は全国的な傾向だ。県センターも加わる全国社協・中央福祉人材センター(東京)は「求人も求職者も介護職が6−7割を占めている。今後も有効求人倍率は高めで推移すると考えている」とする。
 介護福祉士の養成校でもある松本短大(松本市)の尾台安子教授(介護福祉学)は「仕事に魅力を感じても労働に見合った報酬が得られないこと、厳しい労働で体調を崩すことが大きな要因。介護職の離職率は労働者全般と比べ高い」と指摘。「人が足りなくなり現場が過重労働になる構図で、将来深刻なマンパワー不足になることは目に見えている」と警告する。
 厚生労働省福祉基盤課は「介護職の処遇をどう改善し、人材不足にどう対応するかは今後の課題。特効薬はなく、部局をまたいで検討していく」としている。

 さしずめ、ニチイ学館のコマーシャルだったら厚労省福祉基盤課は鈴木京香に「今、何ができるかが大切です!」と怒られるべきである。「特効薬がない」とは何事か。今この時点でこの事態がようやく想像できたのかとでも云うのかと腹が立つ。官僚の想像力の決定的な欠如は憂いて余りある。今後厚労省が現場の介護職を有資格者だけに限る、訪問介護員介護福祉士に限ることを法制化するという噂が出ている。ここに出てくるフィリピン出身の女性派遣社員も資格が必要になる可能性もある。しかし、その時に今、まさに現場で低賃金にもかかわらず就業している職員はどうなるのか。こうした資格者養成期間はその時のために今から宣伝をしているのか。
 この記事を見ていてほとほと思ったのは、国会の予算委員会でも総理、あるいは厚労大臣の答弁に出てくる有効求人倍率の問題だ。いくら人を求める側の件数が増えたとしても、もしそれが間尺に合わない賃金によって構成されており、それでは暮らしていけないからと求職の側が敬遠していたら、そこでは有効求人倍率は1.00を上回るのではないのだろうか。ひょっとするとこれは数字のからくり?
 いずれにしても、どんなに策を弄して予算案を通したとしても、この分野での就労条件は決定的に劣悪な状況にあり、今後わが国において決定的な問題を露出することは、誰の目にも明らかである。結果的に自らの利得になる政策のためだけに邁進するグループをそのままにしておくのは、私たちにとってゆっくりとした「自殺」に他ならない。
 「大学生のレポート」を書いている暇があったら、こっちのレポートを書く方がなんぼか緊急性が高いとは思わないのだろうか。