ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

行方不明

 100歳以上の人たちを政府が自治体を通して必死になってその行方を捜している。113歳、111歳の人が戸籍上はご存命の筈なのに、実際はもう既に亡くなっておられるか、どこにおられるのか判明しないことに気がついて、これは大変、という事態になっている。
 讀賣のサイトによるとすでに全国で48人の所在が不明であることが判明したというのである。

 大阪府東大阪市の18人のほか、川崎市、千葉県野田市松戸市、埼玉県鶴ヶ島市大阪府和泉市大東市京都府宇治市笠置町兵庫県相生市和歌山県海南市で各1人
 東大阪市の発表によると、厚生労働省に報告するため、今年9月に100歳以上になる予定の132人について調査した結果、18人が住民登録上の住所におらず、4日現在、所在が確認できなかった。(2010年8月5日03時04分 読売新聞)

 その一方で身元不明のまま亡くなっていっている人は後を絶たない。法律上は本人の氏名または本籍地・住所などが判明せず、かつ遺体の引き取り手が存在しない死者を行旅病人及行旅死亡人取扱法で行旅死亡人(こうりょしぼうにん)として官報に公告されるのだけれど、その殆どは判明していないようだが、この中には身分を表すようなものが見つかっても、それが本人であるということを明らかにする術がなければ行旅死亡人となる。どうやら統計は内容だけれど、年間に1000人以上がこの扱いを受けているらしい。
 中にはこうして官報に掲載されて後に、身元が判明して、家族が繋がったというケースももちろんある。
 今や官報がネット上で閲覧できるよう(こちら)になっているとは知らなかった。わざわざ役所の外に立っている掲示板に貼ってある官報を読まなくても良いのだ。
 行旅死亡人は号外の中に掲載されているらしくて最近のものを読むとこんな具合に掲載されている。

行旅死亡人
 本籍(自称栃木県宇都宮市川田町220番地)、住所(自称栃木県小山市城東2丁目15番地15号原マンション10号室)、氏名(自称 谷本一 たにもとはじめ、昭和12年11月9日生)、推定年齢72歳位の男性、身長約158‹、体格肥満、頭髪白髪混じりの短髪、着衣は上衣灰色作業着ベスト、半袖シャツ、白色肌着、下衣紺色ナイロン製ズボン、小豆色ボクサーパンツ、黒色靴下、白色運動靴、所持品は黒のリュックサック上記の者は、平成22年6月6日午後1時45分ころ、千葉県南房総市白子2698番地19ソフトバンクテレコム株式会社丸山国際中継所の東方150N先白子海岸波打ち際にて発見されました。死亡推定時刻は、同日の午後1時ころ、死因は溺死。身元不明につき遺体は火葬に付し、遺骨は当市において保管しておりますので、お心当たりの方は、当市社会福祉課まで申し出てください。平成22年8月3日千葉県南房総市石井裕

 これだけを見ると、この男性は本籍、住所、氏名、生年月日まで判明している様に見えるから、多分それを推測することのできる何らかの資料が着衣から見つかったけれど、それが必ずしも本人のものなのかどうか証する術がないということだろう。しかし、それでも本人と結びつける連絡先が見つからなかったということだろう。この人の戸籍はこのあとどうなるのだろうか。「死亡」として戸籍が処理されるのだろうか。

行旅死亡人
 本籍・住所・氏名不詳、60歳位の男性、身長160cm、中肉、虫垂炎の手術痕有り、着衣は、茶色長袖肌着、白色長袖セーター、茶色長袖ジャンパー、緑色ズボン、緑色トランクス、黒色靴下、白色紐付スニーカー(25cm)、遺留品は、腕時計(アルバ製)1個、ハンカチ1枚、櫛1本、ロッカーキー(黄色で2564と記載)1本、薬(コーラック10錠、ブレシン25 40錠)
 上記の者は、平成22年1月28日午後4時15分頃、大阪市此花区酉島五丁目11番大阪ガス酉島グランド北方約100m淀川左岸水際にて発見されました。死亡は平成22年1月28日午前6時頃(推定)、上記発見場所に同じ。死因は溺死。遺体は検視の上、市立小林斎場にて火葬に付しました。心当たりの方は当区保健福祉センターまで申し出てください。平成22年8月4日大阪市此花区長木下久

 この男性は全くなにもわからない。ロッカーに手がかりになるようなものがあるのかも知れないけれど、それがどこのロッカーか不明のまま。多分役所から積極的に調べ上げたらどこのロッカーなのかを追求することはできるだろう。しかし、それには随分手間暇が掛かるであろうことは容易に想像がつく。そして役所がそれを見付けたところで、本当に本人と証明することができるかという可能性が高いとは必ずしもいいきれない。役所に豊富な人材があれば、それもできるだろうけれど、なかなかそうとは思えない。

行旅死亡人
 本籍・住所・氏名不詳(自称鈴木節子)、推定年齢66歳の女性、身長155cm、中肉、着衣はパジャマ、遺留金品は、現金、財布、封筒、鍵、携帯電話、茶封筒、キャッシュカード、雇用保険被保険者離職票1・2、雇用保険被保険者証、死亡届コピー
 上記の者は、平成22年6月3日午後2時06分、大阪市阿倍野区松崎町2丁目5番7号松栄荘31号室にて発見されました。死亡は平成22年6月1日頃(推定)、上記発見場所に同じ。死因は慢性虚血性心疾患(推定)。遺体は検死の上、小林斎場にて火葬に付しました。心当たりの方は当区保健福祉センターまで申し出てください。平成22年8月4日大阪市阿倍野区長村山晋一

 きちんとひとり暮らしを続けてきたであろう女性のようだ。奇異に感じるのはこの女性がお持ちだった「死亡届」のコピーであろう。一体どなたの死亡届だったのだろうか。推測できるのはこの女性のパートナー、あるいは家族のどなたかのものだろうか。雇用保険離職票を持っていたということはきちんとした雇用関係の中で働いてきた人だろう。それなのに、なぜこの女性は戸籍が判明していないのか。発見されたアパートを住所とする住民登録はされていなかった、ということになるのだろうか。とすると、この女性の戸籍は一体どこにあって、それは今誰が繋がっているのだろうか。

行旅死亡人
 本籍・住所・氏名不詳、推定年齢50〜70歳位の男性、人相は白骨化のため不明、着衣は、黒色革用(原文のまま)のハーフコート、紺色長袖シャツ、灰色ストライプ柄カッターシャツ、紺色ズボン、腹巻様のもの、黒っぽい靴下、黒色革靴、遺留品は、ハーフコート左胸ポケットに火葬した人骨及び写真1枚入の白色ビニール袋、遺留金無し
 上記の者は、平成21年12月22日午後7時42分、西成区玉出西2丁目13番2号永田文化1階西側居宅にて発見されました。死亡は平成19年冬頃(推定)、上記発見場所に同じ。死因は縊死。遺体は市立北斎場にて火葬に付しました。心当たりの方は当区保健福祉センターまで申し出てください。
平成22 年8月4日大阪市西成区長林田潔

 この官報の記事から推測されるのはこの男性はひとり暮らしだったアパートで首つり自殺をしたのだけれど、そのまま約2年間誰にも発見されることがなかったということだ。ポケットから発見された「火葬された人骨」と「写真」は一体誰のものだったのだろうか。こよなく愛していた人のものであるだろうことはこの期におよんでもポケットの中に抱えていたことからも推測できるだろう。
 こうして平均したら一日に3〜4人の行旅死亡人が発生している現状の中で、その人たちの戸籍はそのまま手つかずになっているはずで、どこでどうしているのかわからないまま、戸籍上は一年一年齢を重ねているはずだ。
 その状況をそのままにして目をつぶって来ていたのだから、こうした状況が発生することに不思議はないはずだ。