ほぼ足りてまだ欲 その先

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塀のアナ

 今はもう横浜の実家も半分は売り払っちまったから残っちゃいないけれど、下のうちとの境の万年塀はうちが引っ越した時から穴が開いているところがあった。実家はちょっと変わった構造をしていて、下のうちとの境界にそって築山があって、それがそのまま地下へ下る階段になっていた。今から考えてみると変わったうちだけれど、それは戦争前まで住んでいたうちが商売をやっていたそうで、その地下は倉庫代わりになっていたんだそうだ。
 つまり、空襲で上物は粉々になったようだけれど、敷地そのものは戦前としてはかなり手が込んでいたらしい。当時としては珍しく、浄化槽があった。だから当然トイレは水洗だった。
 下のうちとの境の万年塀のアナというのは、焼夷弾が直撃して開いた穴だというのだ。しかし、誰か見ていた奴がいるとは思えない。父と母は戦争中は後ろの丘の向こう側に暮らしていたはずで長女はそこで生まれている。だからこの塀に開いた穴がどうしてできたのかについては知らなかったはずだ。
 戦後暮らしていた社宅から400mほど下ったその場所をどうやって手に入れて引っ越したのか知らないが、多分金を借りていたんだろう。そうして親父が苦労して手に入れた念願のわが家を子どもたちが売り払っちまったんだから、さぞかし恨んでいることだろう。
 庭の片隅をほじくり返すと必ず瓦礫が出てきたものだった。その穴を開けた焼夷弾で多分下のうちも、そこに建っていた家も燃えたんだろう。70年ほど経ってようやくあの万年塀はお役御免になったわけだ。いつまでも惨状を晒していて塀もいやだっただろうなぁ。